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建築家トップ > コラム > 第3回 バリアフリー > バリアフリーについて

第2回 光と風を取り入れる
・・・バリアフリーについて・・・
天野秀一 建築研究所 天野秀一

日本も本格的な高齢化社会に突入し、ここ数年の間に「バリアフリー」という言葉を見聞きする機会が多くなりました。しかし、それは段差をなくすとか、手摺をつけるといった建築の仕様としての狭い意味で用いられているように思います。基本にもどって、まず初めに「バリアフリー」という概念と、その上位概念である「ユニバーサルデザイン」および「ノーマライゼーション」について説明しましょう。

「バリアフリー barrier free」
障害者や高齢者が日常生活するうえで、障害(barrier)のない(free)ような建物や環境をつくったり、改善したりすることです。この考えは、1,960年代の初頭から欧米で唱えられ、’63年に出版されたセルウィン・ゴールドスミスの「Design for the Disabled 身体障害者のための生活環境設計」がひとつの指標となりました。法律では、’68年にアメリカで制定された「建築障壁除去法」が最初といわれています。障害をなくするという発想ですから、段差をなくして移動しやすくしたり、歩行や階段の昇降を補助するために手摺を設けることも当然「バリアフリー」の一環です。しかし場合によっては。障害者や高齢者のためにはなっても、健常者には使いづらく、我慢を強いられることもあります。

「ユニバーサルデザイン universal design」
障害者・高齢者・健常者の区別なしに、すべての人が使いやすいように製品・建物・環境などをデザインすることです。1,974年にアメリカのロナルド・メースというひとによって提唱されました。「バリアフリー」の上位概念といえます。対象者を限定しない普遍的な(universal)デザインということです。たとえば、障害者が使いやすいシステム・キッチンであっても、健常者が使いにくいものは「ユニバーサルデザイン」とはいえません。この考えは、誰もが快適に生活できる環境を整える、という崇高ですが、本来当然あるべき理念でもあるのです。

「ノーマライゼーション normalization」
障害者・高齢者・健常者に関わらずあらゆる人が共に住み、共に生活できるような社会を築くことです。1,950年代のデンマークで、施設に隔離された知恵遅れの子供たちを地域に帰そうという運動から始まったとされており、バンク・ミケルセンというひとが提唱しました。これは「ユニバーサルデザイン」が製品・建物・環境などを対象にしたのに対し、社会や人間としての生き方までをも含む最上位概念といえるでしょう。正常にすること(normalization)、あるいは、本来あるべきようにすることが常態であること(normalization)を目指しているのです。ですから、この「ノーマライゼーション」が、現代の社会福祉を考える上で最も重要な基本理念であると言われています。

このように、わたしたちが「バリアフリー」を考える際、「ユニバーサルデザイン」や「ノーマライゼーション」という概念もよく理解しておかないと、障害者・高齢者・健常者に関わらずあらゆる人が快適な日常(社会)生活を営むことはできないでしょう。

次に、日本における障害者や高齢者への対応を建築制度の変遷から見ることにしましょう。
1,970年以前にも障害者の専用施設(福祉ホーム等)や個々に対応した住宅はありましたが、国の住宅政策としては、おもに車椅子対応ではありますが、’71年に建設省が出した「心身障害者世帯向公営住宅の建設等について」という通達がさきがけといえます。’74年には「老人向け住宅の計画・身体障害者向け住宅の計画」という、日本で始めての設計マニュアルが作られました。’85年になると通産省の「新住宅開発プロジェクト」での「高齢者・身体障害者ケアシステム技術の開発」、’87年から始められた建設省の「長寿社会における住環境向上技術の開発」プロジェクト、そして’95年には「長寿社会対応住宅設計指針」がまとめられました。’96年に住宅金融公庫が「バリアフリータイプ基準」を設けたことで、一般的な認知度がぐっと高まったといえます。2,000年になると「住宅の品質確保促進に関する法律」ができました。そのなかで「高齢者等配慮対策」として、おもに安全に移動するためと、介助式車椅子での生活を容易にするための配慮対策が5段階基準で示されました。また介護保険法において、’00年から実施された住宅改修制度は、より現実的なバリアフリー対応の支援を目的としています。
このように、ここ10年の間にめざましい制度の充実をみることができます。しかし、実際の建物への波及としては、新築を除けばまだ充分でないような気がします。

では「バリアフリー」がなかなか普及しにくい原因のひとつである、日本の、特に在来木造住宅における特殊な事情について説明しましょう。
日本では、玄関で靴を脱ぐ習慣があります。それに加え、多湿という風土から床を地面から高く上げています。マンションなどは別として、普通玄関には20〜30pの段差があります。これを解消すべく、スロープにするか階段状にしようとしても、狭い玄関ではこれだけの段差を解消することは難しいです。介助がない場合、これを解決するには昇降機を設置するか、アプローチを別にとるしか方法はありません。ただ新築の場合は、防湿対策をして床を下げることができます。
同じように、和洋折衷の間取りからくる和室と洋室の床の段差も問題です。段差が小さい分、かえってつまずきやすいので、スロープによる段差解消が必要になります。これも新築の場合は、初めから考慮すれば問題ありません。
次は構造的なことですが、在来木造住宅の柱間隔の問題です。一般的な柱間隔の基準(モデュール)は910oなので、柱面の間隔は805oです。そこに壁のボードを張ると、壁面の間隔は約750oになってしまいます。さらに壁に手摺をつけると700oの幅すら確保するのが難しくなるのです。廊下・階段やトイレの幅はこれが標準(住宅金融公庫のバリアフリー仕様は、幅780oを廊下の最低基準にしています)ですが、車椅子での生活を考えると少し狭いでしょう。また、廊下や階段に手摺が出っ張っていると、健常者にとっても狭い窮屈な思いを強いられます。新築の際には、廊下の幅などを基準のモデュールより少なくとも150o広く取るように心掛けるべきです。
最後に、寒い冬の時期、セントラルヒーティングで建物全体の暖房をしていれば別ですが、日本の住宅ではほとんどが個別暖房です。暖かい部屋にいた高齢者が、寒い脱衣場ではだかになり、冷えた浴室の洗い場からすぐに熱い湯舟につかった場合、この急激な温度変化が脳溢血や心臓発作の原因となり、浴槽で溺死することがよくあります。65歳以上でいちばん多い家庭内事故死が溺死なのです。この場合、温度差というものが「バリア/障害」になっています。

先にも触れましたが、「バリアフリー」という考えは単に建築の仕様にとどまらず、「ノーマライゼーション」という社会的な意味合いのなかでとらえながら、私たちは問題点を改善していかなくてはなりません。そして21世紀に入り、世界中の誰もが人間らしい快適な生活ができるように、物理的、社会的、制度的、心理的及び情報面での障害を除去した、本当の意味での「バリアフリーな社会」が一日でも早く実現することを願わずにはいられません。

 
  天野秀一 建築研究所 http://www.sa-ra.biz/
 
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