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建築家トップ > コラム > 第7回 地下室の利点-自然災害に備える > 地下浸水

第7回 地下室の利点-自然災害に備える
・・・地下浸水・・・
福島郁  福島 郁/建築造形工房

地下室の最大の利点は、その恒温性であろう。夏は涼しく冬暖かく感じるのは地下空間を経験した者には誰でも分かることだろう。歴史的に見ても中国のヤオトンなど大昔から人々は地下空間を利用、居住してきた。現代のように複雑な居住環境においても、地下空間を上手に利用すれば十分に快適な生活空間を得ることができるだろうし、何といっても最大のメリットは、地上の喧騒から離れた地下空間の持つ落ち着きや静かさであろう。
もちろん、注意点もある。地下室の最大の敵は雨である。日本は雨が多い。加えて常水面が高いところでは地下室はいつも水の中にあるようなものだから水に対しては十分な対策が必要である。地下室の水対策としてはブロック等で二重壁にするのが一般的であるが、小さな住宅では面積的にできないことが多い。住宅では結露等の問題もあるのでいくらかの空気層を儲け簡易な二重壁を工夫する必要がある。ここで地下の自然災害の具体例として、私が8年前に造った住宅の地下室が9月の大雨で浸水したのでそれについて記してみたい。何らかの参考になれば幸いです。この家では、常水面が地階より低いので、二重壁方式ではなく、過去何度か試みたことのある躯体防水を採用した。内外とも全て打ち放しコンクリートとしたので、万一浸水すればダイレクトに室内に水が入ってくる。クラックが入らないように、またクラックが入っても貫通しないようにと壁のコンクリートを増し打ちし250ミリの厚さとした。セパからの水の浸入を防ぐために全セパに止水ゴムをつけて、祈るような気持ちで丁寧にコンクリートを打った。それから8年、何事も起こらないままきたのであるが、9月の記録的な大雨でついにというかとうとう浸水してしまった。浸水したといっても恐れていた壁からではなく、思いもかけないドライエリアからであった。大雨で道路のはけきらない雨水が敷地に回りこみ、ドライエリアに流れ込んで、窓ガラスを破壊して一挙に地下を水浸しにしてしまったのである。15坪の面積の地下室が1メートル近くまでプール状態になったからたまらない、倉庫のように保管されていた家財道具はほとんど駄目になってしまい、大変な損失となった。唯一助かったのは床である。建設当時少し無理をして床は杉の厚板30ミリを本実で張っていたため床下への水漏れが全くなく、張り替えずに乾燥及び清掃・塗装するだけですんだことであった。さすがムク板、本物を使ってよかったと感謝である。念のため床下は乾燥・消毒を施した。結果としてドライエリアの立ち上がりを高くしておけばこんなことにはならなかったと悔やまれるが、建設当時の状況から道路幅が拡張され、すぐそばに巨大マンションが建設されて環境が一変、道路の雨水量が増すことまでは予測できなかった。地下を造られる方にくれぐれも申し上げたい。雨と水には十分なご注意を。周囲の環境の変化を読み取り、さまざまな観点から予測できる安全対策を十分にしてください。

9月4日の日曜日夜半、東京は記録的な大雨となった。暑い夏もようやく過ぎ、夜は幾分しのぎやすくなっていた頃である。休日の仕事から帰り、風呂に入ってそろそろ寝ようかというときに突然電話がなった。こんな夜遅く誰からだろうといぶかしく思いながら受話器をとると相当あわてた女性の声で「水が、水が」。一瞬何のことか分からなかったが、一呼吸おくとすぐにぴんときた。あっ、あの家の地下に水が入ったか。8年程前に練馬の住宅地に、それも白子川という川の近くの低地に地下室つきの鉄筋コンクリート3階建の住宅を造った。丁度、住宅の地階の容積率が緩和されたときで、制限いっぱいに総3階とすることができた。地階は15坪ほどで子供室と主人の書斎を設け、南北の子供室にはそれぞれドライエリアを設けた。北側の道路に接したドライエリアには庇がなく、毎年の雨、台風の季節になると排水用自動ポンプはちゃんと作動しているだろうかといつも気にはなっていたが、これまで特に何も連絡はないので安心していたのである。少し落ち着いて話を聞くと、どうやら道路から大量の雨水がドライエリアに流れ込み窓を破壊して一気に地下をプール状態にしたらしい。とにかくどこかに連絡を、こちらも相当あわてている。休日でつながるはずもない電話を、工務店や監督の自宅にとあちこちかけまくる。外では向かいの建売住宅の住人たちが床上浸水でわいわいと騒いでいる声が聞こえる。少し冷静になって、とにかく消防に連絡をするように施主に頼み、朝まで待つことにした。したというより待つ以外どうしようもなかったのである。朝一番で管轄の役所の防災課に連絡し、状況を説明、緊急に対策をとってもらうように段取りをつけ、急ぎ現場に駆けつけた。現場に行くとドライエリアの周りはすでに土嚢がうず高く積まれていた。施主の話では、昨日のうちに近くに住んでいる息子が駆けつけ、消防隊と連絡をとって、これは大変だということで地下室の水をポンプで排出したということだ。とりあえずほっとひと安心。ことの詳細はこうであった。その家は南北に道路があり、北側道路が川のすぐそばで敷地より1メートル低くなっている。建設当時は幅3メートル程度の小さな道路で、道路を挟んで大きな隣地の緑が、とくにサクラが見事であった。春は借景、花見でもと、そのためのルーフテラスまでこしらえたくらいである。ところが状況は一変、道路は拡張され、緑豊かな隣の敷地は売却されて、そこには住宅地としては不釣合いな巨大マンションが建設されてしまった。建築は時間と関わってあるものだということは分かってはいても、現実にはどうなるか分からない将来のことよりは今をよりどころにして造ることが多い。というより先のことはなかなか読めないのである。こうしておけばよかったのにというのはあくまで結果論であり、未来のことが予測できればこんな楽なことはないが。ということで花見どころではなく、今度は逆にのぞかれるのを心配しなければならなくなり、せっかく造ったルーフテラスが心地よい場所ではなくなってしまった。まさかこんな風に変わっていこうとは夢にも思っていなかった。巨大マンションの建設とともに道路が倍の幅に拡張されたため、雨水の量が増え、坂上から流れ落ちてきた雨水がはけ切らず、一番低い所に集中して、穴になっているドライエリアに流れ込んだのである。一挙に大量の雨水が流れ込んだため自動ポンプではけ切らず、まずコンセントが水の中に、電気系統がやられてポンプが停止し、後はどんどんと溜まる一方、ドライエリアがプール状態となったために水圧に耐え切れず窓ガラスが破れ、あっという間に地下が水浸しとなった。地階の子供室は、子供が独立した後、彼らの荷物置場となっていて、本やパソコン、衣類など家財道具の大半がだめになってしまった。結果論としてもう少しドライエリアの立ち上がりを大きくしていればと悔やまれるが後の祭り。三方立ち上がりがあるが道路側のみ高くし、敷地内はできるだけ開放感を得るために低く抑えたのがあだとなった。とにかく住める状態にと、片付けから清掃、事のついでに必要なリフォームが始まった。子供室の間仕切を撤去、広々とワンルームにし、随時仕切れるようにアコーディオンドアを設けたり、照明を明るい蛍光灯に変えたり、雑然とした倉庫のような空間がすっきりとしたワンルームに新たに生まれ変わった。考えようによっては、ものは消失してしまったが、また新しい空間を得ることができたのだからよかったのかもしれない。よかったということはないかもしれないが、こういうことがなければおそらくは倉庫状態のままであったろう。有効利用されないまま地下室は眠っていたかもしれない。災い転じて福となるまではいかないにしても気分一新新しい生活が始まるに違いない。それにしても多くの設計者に伝えたい。ここで私が言うまでもなく先刻ご承知であろうが、地下を造る方、くれぐれも水にはご用心を。注意しても注意しすぎることはないでしょう。

 
 
福島 郁/建築造形工房 http://www.geocities.jp/ksm190/
 
 
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