建築家トップ

建築家検索
建築物一覧
紹介済みの建築物
バルセロナ便り
コラム
建材・インテリア・家具・建築関連情報
建築メディアリンク集
家づくりBLOG集
建築家VS住宅メーカー
マネー基礎講座
トップへ
 

建築家トップ > コラム > 第10回 和室、畳の部屋の効能 > 日本人の振る舞いと、和室・畳

第10回 和室、畳の部屋の効能
・・・日本人の振る舞いと、和室・畳・・・
鈴木佳寿美  サンク(株)

玄関で靴を脱ぎ、スリッパを履くと短い廊下の先に和室があります。
3、4歩歩いた後にたどり着いた和室境のふすまを開け、今、履いたばかりのスリッパを脱ぎます。
ハイヒールのかかとを半分隠すように仕立てたパンツは床を摺って、踏みそうになるので
帰宅して最初にやることは、足より長いパンツをはきかえることです。 日本人と日本人の生活をからかうつもりで書いたのではありませんが、これは日本人が日常の中で不思議に思わず行っている生活習慣です。
畳とは話がズレますが、もう少しお付き合いください。
皆さんのお宅では、食事の時、茶わんと箸はめいめいが決まったものを使っているはずです。食事の度に同じデザインの茶わんや箸を無作為に使いまわすことは稀だと思います。
思いがけない、個人主義の日本人が見えてきます。
これではテーブルコーディネートは出来ません。
日本人はすっかり欧米風の生活習慣を身につけていると考えていますが、決して譲れない日本人としての習慣や振る舞いを色濃く、生活習慣の遺伝子として継承しているのです。

畳室は和室と呼ばれ、座敷として住宅の中で重要な空間として未だに機能しているお宅や地方はあります。
一方、小住宅化に伴い、部屋数の限られている、特にマンションなどでは畳を敷き詰めた無目的の部屋は減り、畳の生産絶対量は減少しつつあります。畳は予備室として準備された部屋に、かろうじて敷かれるのが時代の風潮です。
自宅で冠婚葬祭を行わなくなった大家族制度の崩壊も畳室を少なくした原因ですが、学校でも職場でも、生活時間の大半を椅子、机で過ごす習慣が住宅に持ち込まれたことも相乗効果となっています。
加えて日本人の生活がカジュアル化して、「格式」というものが排除されたことも遠因です。
では日本人は畳の無い生活を獲得して欧米化したのか自問すると、前段で述べた、日本人として譲れない習慣は残っているのです。

近年のシックハウス問題により、自然素材回帰の風潮の中で畳も注目されていますが、他の自然素材と同様に、「自然素材イコール安全」の図式はありません。
安全な素材はダニやカビの温床になる要素もありますので、ブームだけで導入することは危険です。
防ダニ、防カビ加工を施した畳は健康を阻害することもあります。
バリアフリーなどの切り口で考えると、車椅子や要介護者の失禁の後始末はフローリングに優位な条件が整っています。
つまり、合理的な住宅計画では、畳は必需品ではないという結論が見えてくるのです。
和室を洋室にリフォームすることは多くても、洋室を和室にリフォームすることは稀です。
不便を便利に変更するリフォームでは、和が洋に変化する方向を「合理」と捉えているようです。
このことは、帰宅したお父さんが和服に着替えてくつろぐ姿が稀なのと似ています。
もう、サザエさんのお父さん以外は、トレーナーやフリースに着替えることが「くつろぎ」になっているのかもしれません。
この日本人の生活形態の変遷の現実を直視してこなかった工務店、設計事務所の責任は大きいものがあります。
生活形態の変化を十分に読み取って和室造りをせずに、和室を希望する施主には、趣味性の高い銘木で和室の「格」を示し、それを使いこなすことが「良い仕事」だと言ってはばかりません。
私はこれを「銘木主義」もしくは「材料主義」と名づけています。
現在の日本の生活形態に順応した和室の提案をおろそかにしてきた付けが、特に中小の工務店を圧迫しています。
大壁造りのクロス貼りで済ませるハウスメーカーに市場を席巻されているのもここに根本の問題があるのです。
軸組み工法が構造を見せて造る理由は、モノを見せているのでなく、技術を見せているのです。技術を放棄したところに、「和室」は出番がありません。
「和風」だけがひそかに残るだけです。
畳の減少はその流れに追随してきただけのことです。
それでは日本人は日本人の心を喪失してしまったのかと問うと、そんなことは無いと前段で述べました。
日本人には譲れない習慣があるのです。
畳の上へ履物を履いて上れない日本人は、住宅で靴を履いて過ごす欧米型の習慣はなじまないようです。
ひとつには高温多湿という風土が靴履き生活の歯止めになっているという見方もあるでしょうが、「心に土足で踏み込む」とか「奥床しい」という、日本人の根源にある心の文化に屋外、室内の別が明確に区分されていることも大きな要因です。

ところで、「格式」と定義付ける文化があります。
「格式」や「様式」は失われつつある概念ですが、人間同士が作り出す社会の仕組みの中で尊重すべきルールや方法論を「文化」と呼び、成熟すると「格式」「様式」と定義されます。
ルールや方法論が多いと窮屈ではありますが、スポーツにルールが無ければ面白くないように、社会生活や個人の生活にもルールがあると、秩序ある行動が生まれます。
サッカーで手が使えないルールを誰も不合理だと責めません。
文化を育む、文化を尊重する、ということは、暗黙の秩序の元に生活することを受け入れることです。

古くからある和室には、成熟したルールの「格式」が「伝統」として継承されています。
たとえば、部屋に上下(かみしも)があると振る舞いが限定され、それに沿う行動は「格調高い」振る舞いと解釈されます。
言い換えれば行動の美学です。
自分の振る舞いを、意識せずとも制約を加えて行動している日本人は、美しい建物、美しい部屋だけでなく、「美しい振る舞い」をひそかに実践しているのだと思います。
家に上がって、丁寧な挨拶をする場合、立ったままの礼より、床に座って正座で挨拶をすることが礼にかなっていると考える人はまだ多いのですが、これはフローリングより、畳が似合う振る舞いです。
一方、格式とは対極にある「くつろぎ」のかたちもフローリングと畳では異なります。
「ごろ寝」などという日本人の習慣にはフローリングより畳が似合います。
格式を望まない近代的な住宅のフロアのコーナーに、置き敷きの畳を設置する住宅が見受けられるのも納得できることです。

不合理として排除するものがある一方で、自らに振る舞い方を課す日本人は、硬軟の行動の規範を継承している和室を淘汰しきれないのではとも考えています。
ただ、ここでは述べきれない要因で、和式建築の技術が継承しづらい今の日本の状況では、上記の様に畳だけを設置することで和室とする方便はしばらく続くと考えます。
家族の中の秩序が崩れてきている現代で、その秩序を修復する空間が和室かもしれないと考えると、また和室の見方が変わるのではないでしょうか。

 
 
サンク(株) http://www.kenchikusekkei.jp/
 
 
建築家
当サイトはリンクフリーです。バナーはご自由にお使い下さい。
建築家登録と変更   免責事項   利用規約   プライバシーポリシー   会社案内   お問い合わせ
ブライト・ウェイの生活支援ポータルサイト
こそだて」「建築家
 
copyright(c) Bright Way Co.,Ltd.All Rights Reserved.