15坪ハウス 敷地は正確には14.5坪である。敷地は25坪から30坪は必要だと思う人も多いだろうが、大阪市内には同じような大きさで出来上がっている昔の建売住宅が多く建っている。この家はそのような築30年程の建売木造2階建て住宅を取り壊して出来た、鉄骨3階建ての住宅である。 ここに核家族形式の家を計画した。あまり予算はないが家造りに興味があり、小さい敷地で自分たちに合った家を建ち上げ生活したい人はいるはずである。建売並のローコストにはならないが、比べてもそれほど予算をかけずに、特に小さい家を考えている人に対して、標準化できる要素をこの家で具現化したいと思ったことが大きな設計主旨である。 狭小敷地が並ぶ区域は今回もそうなのだが、敷地の三方は隣家の壁に囲まれて光が入らない状況が多い。よってその三方に窓をつけても明かり取りにはならない。また隣家と同じように外壁に窓を設けると、隣家の窓と同じ位置にきてしまい重なる可能性があり、結局開けることも出来なくなる。窓を空けても隣家の台所から来る排気が内部に入りこむことも考えられる。以上の状況により、三方の外壁には窓を一切無しとした。 次に、三方が外壁で塞がれるとなれば、光と通風をどこで取るかを考えると、必然的に建物の中に外部吹き抜けを設けることとなった。発想としてはとても単純であるが、14.5坪の敷地にたいして、他要素の要求を満たしながら取れる外部吹き抜けの面積は、わずか0.75坪しかなかった。そこに光、風がどれだけ入るか予測が難しく、模型等により出来る限り検討した。結果は想像以上に明るく、日が落ちるまで居住空間に照明設備は一つとして必要が無い。吹き抜け廻りの窓ガラスから反射し合い拡散する太陽光が一階の土間空間まで届き、株立ちのヤマボウシを照らしてくれる。風も1階ガレージと吹き抜けが続いているためうまく抜けてくれる。高さ約9メートル、面積0.75坪ほどの狭い井戸底のような外部吹き抜け空間だが、建物の中心的存在となった。今回の経験で今後の設計にも可能性を感じた。 また、外部吹き抜け空間は各部屋同士のほどよい繋がり感を創り出す。どこの場所からでも吹き抜けを覗けば他の部屋が見える。植栽が見える。何故だかわからないが家の中に居ながら自分の家が見えるのはどこか楽しいものである。そんなことがこんな0.75坪程の面積でも造ることが出来た。 フロアの割り付けは1階ガレージ、洗面、浴室である。浴室には吹き抜けに向かって浴槽から天井まで開き窓があり、浴室空間は外部吹き抜けと一体的な広がりを感じることが出来て、窓を全開すると半露天的雰囲気となる。2階はLDK+便所。植栽がどこからでも視界に入る。3階はプライベート。寝室は収納含め4畳程度、そこにダブルベットと夫婦2人の所有物で面積を占めており、充分要求を満たしている。見上げると夜空が吹き抜けから覗く。視界は外へ向かって通りぬけ、落ち着いた空間となっている。子供のエリアは将来家具など製作して適宜間仕切りをすると考えている。 天井高さは2.1メートルまたは2.15メートル。1階の洗面部分は2メートルである。一般住宅は2.4メートル程度あるが、ここでは天井を低くした分、天井裏の寸法に余裕を取り照明器具やロールスクリーンを天井に埋め込んでいる。狭小地では前面道路の幅が狭いことも多く、その要因で建物があまり高くとれず、よって天井高さも低くなることもあるだろう。どこか負のイメージが内在していると思われ易いが、実はそんなことは無く、天井の低さが雰囲気のある空間を創り出すということを実際に提案したかった。また熱効率の点も有利である。今回は外部吹き抜けとの連関により空間に変化が出ていると感じている。 部屋の照明は全て間接照明のみとしており、電球はミニクリプトン球というピンポン玉程度の大きさの40W白熱ランプのみを採用している。全て調光式になっており場面に合わせて照明の雰囲気を変えることが出来る。光を弱めることにより夕焼けのように赤くなる。光はつや消し白に塗装された壁にやわらかく反射する。 では、どこが予算的に手頃になるように検討がされているのかとなるが、実際それと言って主張するものは無いのである。廉価な材料を大量に仕入れ、画一的で簡易な施工方法により同じ形式のものを大量生産する建売住宅のようには行かない。利便性ある設備機器は建売住宅のほうが充実しているかも知れない。しかし、家での生活をただ楽に便利に過ごすのと、家での生活に喜びを感じることとは別である。僕らは後者をやはり考えたい。 廉価に建てる提案としては空間のボリュームを抑えることと、使う素材を統一すること、部屋割りの単純化、既製サイズの部材を使用すること、また実際に必要な設備機器を見直したいと思っている。この家においてもそのような点を考慮にいれている。
2008/03/17 - 2008/08/04