2009年の1月、ペルーのリマからメールが届く。
内科医であるクライアントは、その時点で日本を出て10年。スーダン、ポーランド、ペルーと海外で働き、翌年の帰国が決まっていた。それに合わせて開院するクリニックの建築相談だった。
以来14時間の時差を越え、スカイプとメールでのやりとりが始まる。
敷地は大阪市城東区。以前は町工場も多かったが、現在は住宅とマンションが密集して建つ。梅田から地下鉄で10分と非常に便の良いところだ。
自 身のキャリアの最後は、育った地域に恩返しをしたい。大病院で働く医師より、街のお医者さんでいたい。クリニックとは街のピットのようなもの、気軽に立ち 寄れて相談できる場所を作りたい。不安な顔で訪れた人が、何か元気になって帰って行く。そんな雰囲気を持ったクリニックにしたい。当初よりコンセプトは明 確だった。
それに対し、私達が提案したのは光庭のあるクリニック。
密集した市街地から切り取られた光庭に、一本の木が屹立する。 光庭を背に受付があり、囲むように円形の待合がある。白いキューブ状の2階は住宅部。張り出した部分がクリニックへのアプローチを演出する。
受付は、多くの書類を置きたい場所であるが、診察室との間に収納スペースを確保することによって、光庭との共存を可能とした。
待合の天井高は3.5m。上部まである開口が光庭に対して開かれている。光庭を覆うルーバーは5度刻みで緩やかに変化する。ある位置では近隣の視線を遮断し、ある高さでは積極的に光を取り込めるよう、検討を繰り返した。
光はイロハモミジを透過し、柔らかな木漏れ日となって内部に届く。自然こそが、訪れる人の心を穏やかなものにしてくれると思うのだ。 |