今回は土地の選定から私が関与致しましたが、最高のロケーションの敷地です。大自然が創造した壮大なレビューを目前にして建築の出来ることはなにか。難しい問題でした。
考え抜いた末、海の色・光・風を最大限に楽しむための環境増幅装置としての建築に徹し、最高のビューをいかにフレーミングし、映し込み、より印象的に演出するか。
そして装置としての建築は建築の存在感をいかに消すかにポイントを絞りました。
建築の存在を消すために、リビングとバスルームの木製サッシュは網戸も含め、開けているときも閉めているときも全て柱のなかに納め、柱以外のものを隠し、内外を隔てるガラスやサッシュの存在を消しました。同時に網戸も柱の中に引き出し式のプリーツスクリーンを仕込み、存在感を消すと共に、快適に全解放できるよう工夫しています。
蛇足ですが、昨今の建築雑誌を飾る住宅作品の中には、すっきりとした大型窓や全解放できる4枚折り戸などを使っているものも少なくありません。しかし、実際に行ってみると大きなFIXガラスの大開口の外は過密な住宅街で、せっかくの大開口も普段はほとんどロールスクリーンをおろして生活していたり、4枚引き戸で中庭と一体となったリビングがあっても、網戸が無いため蚊や虫を気にして実際はほとんど開けていなかったりします。 また、手すりがない吹き抜けや庇もカーテンも付かない窓なども気になります。おそらく竣工後に網戸を付けたりカーテンや手すりを付けたりして解決しているのだと信じたいですが。私はこのような写真写りばかりを気にした建築を否定します。
“喜びずむ”とはビジュアルだけではなく、五感で感じるものなのですから。
海に面した南面は暗い色の軒を低くそして長く伸ばし、強い日差しが直接室内に入るのさけると共に、海のブルーをより鮮やかに浮かび上がらせました。また、室内は墨や柿渋で塗られ、海の色の微妙な変化、太陽光線のわずかな変化でも感じられるように計画しました。
建築というフレームを通すことで美しい景色や大自然の営みがより魅力的に見えるように建築本体はひたすら黒子に徹してデザインしております。
よくあるように、光や空の移ろいを取り込むなら嵌め殺しの大窓の方が美しいかも知れません。しかし、私には風や波の音、空気も大事な環境要素でした。その為、きちんと開閉ができ、風が流れることも、きちんと機能する網戸も無視できない要素でした。
また、従来の個室とリビング・ダイニング・キッチンという構成ではなく、大屋根の下の大空間に個室やリビング・キッチン・ダイニングが開放的につながり、家族の存在そのものも環境の一部として感じられる空間構成としました。
完成した住宅は夏はエアコンなしでも充分快適なほど海からの涼風が吹き抜け、冬は低くなった日射がリビングの奥まで差し込み、日中は暑いほどのエコ住宅になりました。
また、建て主ご一家も海をこよなく愛し、サーフィンに、バーベキューにと本当にビーチライフを楽しんでおられる様子を見て、設計から竣工まで2年近くにわたる苦労が報われる思いです。また、私の提案するライフスタイルにご賛同頂いた建て主様にこの場を借りて感謝致します。 |