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実測で見えたガウディデザイン バルセロナの陽光に魅せられて 最もガウディに近づいた建築家、田中裕也が綴る

エル・カプリチョが縁で突然の来訪者

1984年12月、バルセロナで巨匠ガウディの展示会が開かれた。
主催は地元の信用金庫ラ・カイシャである。
その展示会の準備でガウディ研究室から協力する依頼を受けた。そこで模型を作る為の作図と模型製作であった。担当のラ・カイシャ財団ディレクター オリオール・フォルト氏に会い、仕事の内容について詳しい説明を受けた。
その頃、財団は、バルセロナのラジェターナ通り56?58番地にある、建築家エンリケ・サグニェールによって計画された1917年の建物の中にあった。当時このラ・カイシャ信用金庫の名前は「老後年金金庫」と直訳できるような金融機関であった。
財団の建物自体は世紀末建築であり、スペインではモデルニズモと云われる時期である。
そのディレクターの説明の内容によると私の作業は、コロニア・グエル地下聖堂の模型を作る為の作図と、その「逆さ吊り構造実験」の模型製作であった。

その頃、私はカタルニア工科大学の6階にあった、1人で利用するにはあまりにも大きなガウディ研究室の工房を借りて、自分の研究作業をしていた。
ある日ガウディ研究室は、コロンビアから来た若い建築家ダビー君を手伝いとして送り込んで来た。それによってフィンカ・グエル、コロニア・グエル地下聖堂、カサ・カルベの実測調査に協力してもらう事ができた。作図の詳細に至る処理の仕方は私の方で指導しなくてはならなかったが、彼なりに真剣に作業に取り組んでくれたので助かった。

その彼に、コロニア・グエル地下聖堂の模型製作を担当させ、またその模型の為の作図方法と模型制作方法を指導した。
私は、もっぱらコロニア・グエル地下聖堂の作図に集中していたのだ。
ここでは「逆さ吊り構造実験」模型をチエーンで作ることにした。ガウディはその逆さ吊り構造実験模型では、腸詰めに利用する綿糸と、それに空気銃の鉛の玉を入れた袋をぶら下げることで懸垂曲線状の形を作っていたのだ。ガウディはそれを更に写真に撮って逆さにして、その上からポスターカラーで建物デッサンをしていたのである。
しかし現在では、そこまでしなくても、現実に地上から立って見せる方法があると私は考えた。
それは鏡を模型の下に置く事で、その模型が地上に立っているかのように見せる事ができると云う提案であった。巨匠ガウディ展ではそのアイデアが採用され、以後至る所で利用されるようになった。
これはもしかするとパテントに値するものだったのだろうか、と今でも思う事がある。
その展示会で、わたしの作図エル・カプリチョの北側立面図、フィンカ・グエルの立面図も展示された。

この展示会は後に世界を巡礼展示することになった。
中でもエル・カプリチョは、当時、図面と云うとこの北側立面図一枚だけで、他は凡その規模が描かれている不明瞭な平面図のみであったことを覚えている。
そこで私は、その立面図を描くために煉瓦やタイルを虫眼鏡で数え、それなりの立面図はできると考えた。だが内部空間の様子や現場での本物のサイズまでは理解できなかった。

作図調査で奮闘していたある日、1994年の秋に、エル・カプリチョのあるコミージャス−その街にあるカンタブリア神学校の所有者であるカンタブリア信用金庫の財団ディレクターのパジェット氏がわざわざ私の自宅に尋ねてきた。
というのも彼等の所有する大学の修復計画をしたいので、その仕事の依頼であった。
私は自分の耳を疑った。

   
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