わざわざ抜かれた4本の柱の意味は?
ガウディはものの形について「ものは非対称にするほうが良い。(何も荒くすることではなく)段上の建物は釣り合いが取れにくい。
シンメトリーは平坦なもので適応性、性格、象徴性、冷淡さが更に強調される。それを避けるには、山の姿の様にする」 と残している。
シンメトリーの存在が不自然である事をここでも示唆しているが、同時に視覚の問題も包括している言葉で建物の釣り合いに触れている。
例えばグエル公園の多柱室のように、柱を傾かせるというのはギリシャ建築でも利用されている手法であり、物理的、視覚的安定性をもとめての矯正手段となっている。
つまり奥行きのある建物の場合、床と平行な桁が長くなり、視覚的に中央は歪んで見える。また背が高い建物でしかも垂直であれば視覚的に倒れかかってくるような歪みとして見える。このようにして長い列柱で構成されている多柱室では、視覚的な違和感を感じさせないような細工が必要となる。特に外周の柱が垂直だと視覚的な安定性だけではなく物理的にも変形荷重がかかり、中央にある柱よりは変形しやすくなる。先人達はその外周の柱を内側に少々倒すことで建物全体が台形状となり、それはまたガウディのいう山のような形状ともなり視覚的な安定感をもたらすことになる。
グエル公園の多柱室の列柱で目につくのは、4カ所の柱が抜けている事である。
もし柱が抜けていなければ、全部で90本の柱の間となる。そこで4カ所の柱が抜けている理由は何か。一つには、当初分譲住宅地であったことから、「住民の為の朝市が開かれる場所とされていた」ということは知られている。ところが列柱の柱を抜くのは容易だと思われるが、プレファブで築かれている列柱であるとすると梁の処理に問題が生じる。つまり同じピースの梁を取りつけていることからすれば、柱の抜けている梁はどのように支持するのだろうかということになる。
反対に考えれば、柱の抜き方にも意味があることになる。
というのもこの公園は基本的にプレファブ工法で築かれている。
この多柱室の柱や梁もプレファブである。よって柱を抜く場合、特殊な方法を考案しなくてはプレファブの梁を支える事はできない。そんな工夫をしなくてはならない重要な目的がこの場所にあったのだろうかということになる。すでに市場としての利用があることはわかるが他にはどんな事がいえるのだろうか。
多柱室となれば空間としては閉鎖的な空間にもなる。ところが、いくつか柱を抜く事で、空間の広がりをかえることができる。それによって、そこにホールとしての機能をもたせるようにもなる。同時に視覚的にも一息つけるような安堵感を与える空間設定ができる。
またこのホールでは、毎日のようにミニ・コンサートが行われているほど音響効果も優れている。そんな音響効果のあるグエル公園の調査は、1978年からはじまり1990年までつづいた。途中他の作品を調査していて中断していたが、公園での調査作業は合計8年間の期間を費やした。
今思えばとんでもない作業であった。
時間もさることながら、作図とそれに伴う資料製作の量は半端ではなかった。
ガウディ研究室からの紹介で、バルセロナ市役所の公園・造園課の部長から調査の許可を頂く事ができた。そうでもしなければ管理職員から事情聴取され、作業は中止されてしまう |