木が参考書
ガウディの建築では傾いた柱をよく見かける。
それが気まぐれなデザインによるものではない、ということに気がつくまでに時間がかかる。
「柱は垂直でなくてはならない」という既成概念を振り払うのだから、随分と時間がかかるのは当然である。何千年も続いた伝統的な建て方としてまっすぐなはずの柱から、それを否定するように不自然という理解に達するには、その予備知識も必要になる。
ガウディの唱える「木が参考書」ということからどんな事を想定できるだろうか。
植物の成長においては、螺旋状に成長する特性がある。樹冠と枝の関係においては放物曲線状に枝分かれしている。ここでは葉や実の重さで枝が放物曲線状にたわみ、また葉の形も葉脈を利用して膜構造となっていることもわかる。
繊維状の樹木は螺旋状に捻れる事でその幹を水平力に対して弾力性を持たせ、より強くなっている。
幾何学的には円錐状に構成される樹冠は「幾何学の母」といわれ、三角、円、楕円、放物曲線、等が含まれていることが理解できる。
科学的には光合成の特性から自然界に酸素を供給させている。その仕組みを建築にとりいれることさえできる。その上で建築的に建材からはじまり外構として造園にまで利用される。
しかも日常生活には欠かせない紙、家具、家財道具にまで利用できる素材である。
ガウディはその素材を化石化させる。化石化した植物を建物に共存させようという演出がグエル地下聖堂、グエル公園、サグラダ・ファミリア教会にまでみることができる。
そこで私は学生時代のことを回顧する。すると学生達の発想はまだ学校での教えの枠を乗り越えてはいなかったことを想い出す。
ものが捻れる動きにはどんな意味があるのか。体を捻りすぎると通常の運動以外の姿勢をとる。すると筋肉や筋にストレスを生じて故障してしまう。ところがここの動きに関しては、重力も合わせて「中心を定める」という動きを示す。
大砲の弾も、回転させる事で中心軸が標的にめがけて当たるという原理だと聞いた事がある。
木の枝も交互に枝を振りながら成長する過程で、螺旋状に捻れているという動きがある。キョウチクトウの茎の断面を調べると、確かに根元と中間では違っていることがわかる。茎が螺旋状に回転しながら成長する過程がその断面をつくっているという。正方形も回転させることで円となる。
その特性を生かしたサグラダ・ファミリア教会の柱である。例えば星形12角形の柱断面が回転することで24角形になったりする。さらに回転すると48角形になり次第に限りなく円に近づく。
柱を傾けるという行為は施工的には大変な事である。
それをいともたやすくガウディは建築デザインの中に取り入れる。そこにはより安定した丈夫な建築を計画するというガウディの心が見える。
特にグエル専用の高架の柱では見事に柱は捻れ、その柱頭では渦を巻いてその上のテラス・スラブを支えている。しかも土塁としてその柱は傾き安定性を生み出している。 |