頻繁に登場するドラゴンの意味
ガウディがドラゴンを建築に演出する場合、いくつかの表現パターンを利用しているようだ。
シウダデラ公園(1873-1888)で工匠ホセ・フォンセレーに協力していたときは噴水、門扉、彫刻などのデザインをしていた。このときには見事な彫刻のある噴水において、水を放物線状に吐く有翼ドラゴン。1878年のカサ・ビセンス(1878-1883)では窓の鉄格子の飾りに、エリマキトカゲのようなドラゴンが可愛らしい口を開けて飾られている。フィンカ・グエル(1883-1887)では、北側にある中央門の門扉に有翼ドラゴンが大きな口を開けて二股に分かれた舌を出し、上部に巻き上げている様子となっている。爬虫類が舌を出して巻き上げている時は、近づくものの匂いなどを探知している動作である。近づくもの、つまり尋ねるもの達を脅しているのかそれとも“いらっしゃい”と言わんばかりの挨拶をしているのかは想像次第。見る側の感性となる。
兜を支えているカデウスの杖(カドゥケウス)に巻きついた有翼ドラゴンも大きな口を開いている。脅しのシーンを見せているかの様にも見える。
またグエル邸(1885-1889)のカテナリー曲線アーチの入口両サイドに、やはり蛇のような爬虫類が、口を開けて舌を巻き上げているようなシーンになっている。
もう一つ違った形のドラゴンの存在がある。
ペドラルベス宮殿庭園内部にあるヘラクレルの噴水の噴水口である。
こちらは舌ではなく水が口から吐かれている。
他にレオンの街にあるカサ・デ・ロス・ボティーネス(1891-1892)の建物入口上部で見られるサン・ジョルディによるドラゴン退治のシーン。リアリティーがあるが、こちらのドラゴンは有翼ワニ風のイメージで、やはり口を開けて舌をだしている。
動物達をリアルに表現しながら舌を開けさせる動作は、動的演出であることには違いがない。
しかし1900年以降のガウディの作品ではベージェスグアルも含めてドラゴンが抽象化されるようになる。つまり建物全体がその架空の動物ドラゴンを演出させているように見えてくる。
解りやすく言えば、ドラゴンが建築ロボット化されたと言う表現にするとわかりやすいのかもしれない。
グエル公園(1900-1912)の中央入り口階段で見られるカラフルなドラゴンは爬虫類のような表現になっている。ところがそれとは別に蛇行ベンチと名付けられているギリシャ劇場の広場周辺のベンチもまた、蛇行そのものが爬虫類的な抽象化としてみることもできる。この頃にカサ・バトリョの計画が始まる。またコロニア・グエル教会も進んでいて地下聖堂の工事も始まっていた。
そこでコロニア・グエル教会ではドラゴンにまつわる演出はされていなのだろうかと今までの経緯から考えてみた。
これらどの作品でもドラゴンは建物入口に飾られていることから、明らかにガウディのメッセージがここに“あること”を訴えかけていると考えられる。
しかもどのドラゴンもグエル公園やヘラクレスの噴水のものは別としても有翼ドラゴンである。基本的にヨーロッパの有翼ドラゴンは悪魔の象徴である。
その象徴を入口におくというのはどういうことなのかという疑問を抱く。 |