巨大なカリジョンは実現可能だったのか?
私のアトリエにはテラスがある。そのテラス越しに見る11階建ての煉瓦仕上げによるマンションに強い風があたると音がする。建物の間を通り抜ける空気がその風圧と空気摩擦によって建物を振動させて音がするといった方が正しいのかもしれない。したがって通り抜ける空間は楽器と化す。
管楽器に空気を流す事で音がでる。ボトルに空気吹き込んでも音が出る。
このようにして空気が流れ通り抜ける空間では音がするのは当然のことである。
ガウディは建物を計画する時に煉瓦を利用してキューポラを作る術を知っている。しかもその中で反響する音の具合も体験している。
建物は人々にとっては生活空間である。
その生活環境のあり方を考えるのが建築家達の役目になるわけだ。建物の居心地や機能などは音質と共に不可欠な計画ファクターとなったりもする。
静かな生活環境を求める人にとっては雑音や音の響き方次第で居心地がわるくなったりする。教会や音楽堂のように音の響き方が重要になる。
つまり用途に応じて環境音の設定をする為の形や素材選択が課せられる。
ガウディが特に建築と音響に拘り続けていた理由は、勿論その機能重視からの居心地よさを基点としての計画である。
例えば、以前にもガウディの鐘については何度か説明しているが、もう少し細かく説明すると、サグラダ・ファミリア教会では鐘楼から半径2.5kmまでカリジョンの音が届くような計画を1915年にしている。
しかし通常のベルマークのようなカリジョンではその距離は届き難いということもあって、ガウディはチューブラ・ベルを考案するに至る。
ところがそのベルは、パイプオルガンのようなパイプではなく放物曲面体または双曲回転体のようなカリジョンとなる計画であった。
ガウディはその為に当時2種類のサイズのチューブラ・ベルの実験をする。そのうちの一つは現在サグラダ・ファミリア教会の地下室に展示されている。
もう一つは見当たらないがその件についてはセサール・マルティネールが彼の著書に示している。
ここで一つ大きな技術的問題が見えてくる。通常カリジョンを作る場合は、型抜きとなり一本ものである。ところがガウディの考えているチューブラ・ベルは最も長いもので20mとなる。つまり理論的に可能だが実際にそのカリジョンを作ることを考えるとそのサイズによってチューブの歪みの可能性とともに一発で型抜きができるかどうかと言う大きな問題がある。次にその場合のプロポーションである。長さによって筒の径もある程度必要になる。そうでもしないとその筒自体の体力に問題を生じるからである。
当時の古文書からガウディのアトリエでそのカリジョンらしき姿の模型が見られる。
その画像をシミュレーションとして20mまで拡大すると、どのような事になるかを試してみた。すると20mだと因みに管の径は6mほどになってしまう。
これだけのボリュームのカリジョンをつくるとなると重量も半端ではない。
カリジョンと言えば1735年に女帝アンナイオアノヴィナの命によって作られた、モスクワにある世界最大級の鐘がクレムリンのイヴァノヴスキー広場に展示されている。サイズが直径6.6m,高さが6.14m、重さ200トンである。
それからすると、ガウディの幻の鐘が完成するとさらにギネスブックの記録が変わってしまう事になる。 |