巨大な鐘を鳴らすデザイン
ガウディは、ベルゴスとの会話で
「円筒状の建築スタイルは、堅く不活性な塊であって安定性とは関係なく光には障害となる。しかもその堅さと結合は、多様性を与えるフープ(帯)、縦溝、モールディングが必要となる」
として曲面体の利用について示している。ところがこのドームによる曲面は、場所に応じて音響が良くなるとしてキューポラによる音響効果を記している。他にセサール・マルティネールとの会話が記されている「ガウディとの会話」(1969年)では、模型と実験による音の特性を説明し、さらにその効果をどのように鐘に還元し建築に反映させるのかを技術的に説明している。
中でも「芸術的に鐘を鳴らす」というのが気になった。
これは、ハーモニュームと言う楽器を電気仕掛けによって感情を表現しようとした。つまりハーモニュームと言う楽器の特性を理解してのことだろう。
この楽器は動物の鳴き声や人間の声に似せる事ができるとされている。しかもそれを電気仕掛けで操作するわけだから、現在のシンセサイザーに似ている。
それにしても20世紀の初頭にそんな装置をガウディが想像していたとすれば超人的でもある。
多様性をもつ楽器の可能性を見出してそれを芸術に結びつけようとするガウディの思考性は何に起因するのだろうか。
ガウディの手記では、オブジェの知識としての芸術を「思考過程で形体の応用としての実験をして常にシンプルな形にするか、芸術的コンセプトを満足させ平面の建築形態の不合理性を解決し合理化する」としていることから、オブジェの合理化が彼の芸術概念の一つであることも伺われる。
さらに工業製品は芸術による経済的成果であるともしている。
つまり製品価格を安価にするが、逆に建設工程が複雑化して手間賃が高騰するようになったと嘆いている。
しかし、芸術はモニュメント的であり感性に富んだ意味を示し、さらに音響と結びつけている。芸術的な音を鳴らす鐘は、音だけではなくその形にも何らかの特性があってしかるべきと思いそのルーツを探る。
そこで浮かび上がるのがカタルニア地方にある民族楽器である。
それとガウディの考えた鐘がどのように結びつくのか。楽器の音色かそれとも形なのかと思った。
従来から作り続けられている伝統的な管楽器カリジョンの形態との比較もできる。
ガウディの考えたカリジョンは筒型である。しかも当時の写真でもそれらしい姿が見えている。
通常のカリジョンは、前後に振り子のように吊られて舌バダッホの玉とぶつかり合って音が出る。カリジョンの重量に対して4%がハンマー又はこの舌の重量となることが専門書には記されている。つまりそれを叩いて鳴らすにはカリジョンの自重とハンマーの重さのバランスが重要となる。さらにガウディによる音質の追求として設置方法までがデザインされる。
カリジョン本体の持つ特性と音質の関係、さらにハンマーで叩く手法は電気仕掛けでハンマーを動かす事になる。
そうすると重たいハンマーを動かす装置、つまり機械システムを計画しなくてはならない。それにもかなりの重量が必要となる。 |