ガウディのドラゴンを考察する
カサ・バトリョの非線形のトリビューンが骨膜のような処理になっているという説明が、理解できるだろうか。
というのもこの処理は既存の建物に増築している部分だけである。その増築部分だけでも維持できるような概念を計画したと考えている。
ではその概念の着想は、どこから来たのか。ガウディは教会計画で、彫刻群のためのアナトミックな分析をしていたことは知られている。
そのスタディの中に当時、人間のモデルを三面鏡の前に置いて写真を撮ったりしている様子がいくつか見られる。しかも人骨のモデルもあった。それからするとやはり骨の形態を観察してのトリビューンに至ったのだろうかと思った。
カサ・バトリョに演出されているストーリーでは、そのメインにサン・ジョルディのドラゴン退治もある。隣のカサ・アマジェでも同じようなシーンがあるのでどんな様子かは現場で見るとわかりやすい。
ガウディはそのドラゴンをカサ・バトリョのファサードに演出しているということに気がついてきた。でも演出は全く違う。建物のファサード全体がドラゴンという風にしてみると矩形に納まったドラゴンということで少々滑稽な姿になってしまうが、むしろ抽象的に想像して見える。
二階の窓はまさにそのドランゴの口、そしてその前にある束柱は大腿骨と植物模様のレリーフ。そして1階の中央にある二本の特殊な形をした柱はまさに猛禽類の足で、螺旋状の筋が力の入ったそのドラゴンの足にも見える。さらに上部に見える小塔は、そのドラゴンの体に突き刺さった剣。そしてもう一つおまけに7つの頭を持ったドラゴンがこのサン・ジョルディのドラゴンと合体した化け物に変身している。私は、ろくろ首の7つの頭のドラゴンと見ている。そして鱗状の屋根はそのドラゴンの背中、その裏はドラゴンの腹として茶色とベージュによる破砕タイルで仕上げられている。
ガウディは「地中海の人達は化け物を作るのが得意」と協力者に言い残している。ということは自分自身もその中に含んでいるとしてみることができる。 するとその化物とは、例えばカサ・バトリョのように合成されたドラゴンの出現がこのファサードという舞台で表現されていることになる。つまりパセオ・デ・グラシア通りのど真ん中で大きな口を開けた化物ガウディ・ドラゴンが剣の痛みに悶えて大きな口を開け、食べていた生贄の骨を吐き出しているシーンとして見てはどうだろう。
まさに中世時代の神話をガウディ竜(流)として表現したのではないだろうか。そして実はもう一つのドラゴンがこの中に演出されている。それはギリシャ神話のドラゴンでラドンという。このドラゴンはヘスペリデスの園の守衛である。
よって三種類のドラゴンがこのファサードで合成されていることになる。
ドラゴンというのは西欧では悪魔の変身であるために有翼となっている。しかもその尻尾にはヤジリがついたような形になっている。ところが東洋では神の変身の姿。どうして国によってこうも変化するのかと思うと民族のあり方にありということになる。
悪魔の変身がドラゴンであるとする世界観をどのように考察できるのか。
なぜそんな化物を表現する必要があったのか。
しかもカサ・バトリョではまさに立体十字架でドラゴンを退治しているシーンである。 |