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実測で見えたガウディデザイン バルセロナの陽光に魅せられて 最もガウディに近づいた建築家、田中裕也が綴る

3度描き直し、4度目で初めてインキング、カサ・バトリョ

何かを求めようと無我夢中の行為からはじまった海外生活でのスタートは、それまでの自分からは信じられない、夢の世界への誘いであったのかも知れないと思い返す。

ガウディは繊細性について
“我々には巧妙さと良い知識に欠けていることがあるが、鋭い完成度がある。
我々にはレオナルドやセリーニがしたような忍耐と繰り返しによる長く難しい調査に欠ける。それが巨匠達の作品の価値となる。
特にこの苦労の痛みは、作品がすばやくできるようになって初めて、拷問の痛みを取り除いてくれる。
本当の価値とは人生の僅かな苦労に大きな価値を与えるものである。
風が枯れ葉を運びさるようにして小さいものは吐き出さすように、苦労の痛みは死ぬまで続き、独自の作品の不満に魂が細く砕かれ、磨かれ、素晴らしく昇華され、ある種の味覚と香水の様に伝統をも癒してくれる。“
と言っている。

 
 

カサ・バトリョ

カサ・バトリョカサ・バトリョの実測は、いきなり断面アイソメになるなどとは考えていなかった。
初めは断面透視図のスケッチをA3のキャンソン紙に描いてみた。
単なる絵としては面白いかも知れないが、建築用の説明図としてはあまりにも小さすぎて詳細部分は省略され、これでは詳細を知ることはできないと感じていた。
階段部分は、手摺子は鍛鉄で巧妙にデザインされ、手摺りはカシノ木で滑らかに削られている。その高さは、階段のサイズに合わせて軽く腕が手摺りに載せられる無理のない姿勢で利用できる高さになっていることも理解できる。
その階段を決めるためにガウディは2度上り下りしてそのサイズを決めたとされている。
そんな事を感じながら階段の実測をしているときにはまだ全体がどのように作図されるのか検討ができなかった。階段全部を実測しアイソメ図にしたとき、その周囲にある部屋などを調査し付け足すことで、さらに建物としての機能性が理解できるようになった。
さらに屋根裏階に到達し、小塔部やバルコニーの詳細等も計ることで内外部の相関関係も理解できるようになった。
ここでパセオ・デ・グラシア通りに対して跳ね出しているトリビューン部分が珍しいと思ったが、どのように2mほどの跳ね出しを支えているのだろうか気になった。
構造を知るには文献から当時の工事の様子を探らなければ理解できないと考えていたが、まだ語学力が伴わずその調査は後回しにしていた。

実測データーもかなり揃い、作図も進むにつれ内外部のディテールも明らかになってきた。サロン前室にある放物曲線状の開口部になったアルコーブの暖炉や二重構造による通気システム、パティオ面の複雑な採光システム、既存と増改築の変遷、尖塔部の幾何学的裏付け、そしてガウディ建築の十八番ともいえる階段室と通気塔の融合体に破砕タイル仕上げは世界的にガウディ建築を象徴させている。
最初の作図ではその程度までの検討であった。
具体的な全体の断面アイソメ図制作はまだ鉛筆仕上げであったが、その為に3度描き直し1986年に四度目でインキングをした。
描き上げていた作品に関してはかなり細かく理解していたつもりだが、実際には再度手直しをしなくてはならないところが随所にあった。

   
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