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建築家トップ > バルセロナ便り > 第335回

実測で見えたガウディデザイン バルセロナの陽光に魅せられて 最もガウディに近づいた建築家、田中裕也が綴る


屋根に込めた思い

ガウディの作品を見ていていつも気になるのが先頭部分である。建物で屋根の部分は必ず何かシンボリックなもので仕上げている。
「屋根というのは人間がかぶる帽子のようだ」とガウディは言い残しているがそれにしてもその納まりが気になっていた。彼の作品全てにその納まりがシンボリックになっている。
そのシンボリックな納まりは、ガウディにとってはどんな意味があったのだろうか。例えばグエル別邸のボールトの越屋根部分にある明り取りは、カップのような仕上げになっている。同じ作品で控柱の先頭にはオレンジの木が象徴されている。
それぞれに意味を持たせたガウディだから、どんな役割を果たしていたのだろうか考えさせられるのだ。このグエル別邸のオレンジの木の先頭部分は、そこに近づいて実測し、さらにその枝についている葉の形からオレンジであることが図鑑によって照らし合わることで理解できた。それをバセゴダ教授に報告してからは、彼も金のリンゴではなくオレンジの木であるとしていた。その後それを証拠づける資料も見つかった。
それがハシント・ベルダゲールによって執筆された「アトランティダ」(1877年 Atlantida)という詩集である。そこにはオレンジの木が描かれているのだ。本来はアトランティダにあったとされるヘスペリデスの園の金のリンゴは、つまりオレンジのことを示していたのではないかという解釈となる。ギリシャ時代にオレンジはギリシャにはなかった。それで他の果物としてオレンジのことを「金色のリンゴ」として呼ばれていたのではないか。
オレンンジはcitrusつまり柑橘類でレモンと同類ということになる。しかしそれとオレンジの色は異なる。また形も異なることからその粒の大きいオレンジをリンゴに見立てて「金のリンゴ」としたのではないだろうか。ヨーロッパにオレンジがインドまたは中国から運ばれたともいう。当時はすっぱいオレンジだったということになっているがルーツは、シルクロードを通してなのかと見ている。
単にギリシャ神話に登場するモチーフをこのように建築に演出させていたガウディの本心は何か。グエル別邸をヘスペリデスの園に見立てての演出であったということにもなるが。
それよりも大切な芸術性の高い建築作品としてみた場合に、地域のアイデンティティーをどのように表現することができるのかというテーマを建築詳細で考えたというように見て取れる。それも創作過程の一環として「表面的な装飾ならしないほうがより美しくなる」という概念をすでにガウディは日記上で記している。やはりガウディの趣向でありまたこの作品のオーナーであったグエルの趣向性による地中海文化の象徴的なものとしてこのような先頭を飾り付けたということになる。したがってその納まりはビジュアルな地域のランドマークとなる地中海人としてのアイデンティティーのメッセージによる作品にしている。

このようにしてガウディ・コードの紐解きを進めているのだが、それはガウディに限らず他の建築家達も歴史的建造物では、特に作家の思いが何らかの形で演出されているということに気がつき始めている。
     
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