ガウディ建築のアイデンティティーを
神話とドラゴンに見る
建物を見るとき、背景を含めた建物全体をはじめに捉え、屋根、壁、入口という具合に目が動く。
人によっては更にテクスチャー、建具、光、陰影、空間などそれぞれの感性にそった詳細に目が配られる。
都市環境に及ぼす建築形態は勿論、総合的な視点から形態、色、素材の扱い方がキーワードとなったりするが、建築の演出は何をベースに計画されているかということも、地域のアイデンティティーの表現方法として重要となる。
それらが都市空間にどのように関連性をもって周囲と共存しあっているのかで、その建築の存在価値となるのだろう。
さらに歴史的背景があればその付加価値は更に高まる。
バルセロナ市の中心街に計画したガウディによるカサ・バトリョは、建築の形態、色、光は勿論のこと、更に周囲への気遣いもさりげなくしているのが伺える作品である。
しかし、壁面の演出には今までコメントが殆どなく、その壁面の謎を深く説明する資料も欠けている為に考察も難しいと言ったところだろう。
ところで窓についているバルコニーが、なぜ中央上部二カ所だけ抜けているのかが妙に不思議でならないのは私だけだろうか。
初めは設置されていて、時代による劣化で中央の二カ所だけが撤去されたとか、又は居室空間ではなく補足的用途の部屋の窓や通気口としての用途であったとか。そうであればバルコニーを設置する必要性もないかもしれない。しかしそんなことはあり得ないのは、既に当時からの写真で伺える。
では、他にどんな意図があってその2カ所のバルコニーだけがないのだろうか、ということになる。
他の意図があるとすればそれは何か。例えば“気まぐれ”な建築計画とすれば、ガウディ自ら避けていることなのでそれはあり得ない。とすると他に考えられるのは神話に基づく演出が残っている。
神話についてはグエル別邸でのギリシャ神話の演出はよく知られているところである。
そこでカサ・バトリョでも同じような手法で何らかの神話が建築計画の演出となるとして考えたらどうだろうか。
建物に向かって左隣の、19世紀末の建築家プーチ・カダファルクによるカサ・アマジェでは写実的なレリーフによるカタルニア地方の神話に出てくるサン・ジョルディのドラゴン退治のシーンが、入口アーチの付け根の部分に彫られている。
ドラゴンと言えば世界にドラゴンに纏わる神話は沢山ある。
ガウディによるドラゴン表現の類型的な他の作品としては、グエル別邸の入口部分に設置された大胆な鍛鉄のドラゴン、他にレオンにあるカサ・ロス・ボティーネス(別名カサ・フェルナンデス・アンドレス)、サン・ホルヘによるドラゴン退治、グエル公園の地下水を守るピトーンというように挙げられる。他に控えめなドラゴンとしてはカサ・ビセンスの窓格子に現れる鍛鉄製の可愛いドラゴンとグエル邸の入口にある鍛鉄のドラゴン、さらにサグラダ・ファミリア教会の誕生の門の中央下部に設置されているキリスト誕生のシーンを支える棕櫚の木を保護している、鍛鉄の格子の下部に見られるヘビがある。
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