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実測で見えたガウディデザイン バルセロナの陽光に魅せられて 最もガウディに近づいた建築家、田中裕也が綴る

職人の日当5ペセタの時代に、20万ペセタの増改築

カサ・バトリョのファサードに現れているドラゴンは、サン・ジョルディの剣に倒れたドラゴンなのだろうか。それともヘラクレスとの戦いに破れたドラゴンなのか。それとも総括的に表現したのだろうか。

いずれにしろ勇者とドラゴンの戦いの姿とすることで、トリビューンの部分が、勇者の槍で突き刺され、そのあまりの痛さに大きな口を開けてもがいているドラゴンの姿ということは既に記している。
バルセロナの繁華街でのパフォーマンスにも見え、そこに差し込める光りは存在感を一段と高め、幻想的な世界に変貌させているのだろう。
これについてガウディは勿論のこと、ベルゴスやマルティネールの会話文にも記されてはいない。
それにしても演出方法としてドラゴン的な表現に固執するのもどうかという気がする。
表現方法は自由で広がりがある。その芸術の世界は悉く自由を拘束しないからこそ広がりがあり、好奇心は尽きることなく成長し、新たな世界に導いてくれるといえるだろう。

今では照明器具を自由自在に操ることで、さらに物体を変身させる技術もある。
さらにデジタルやIT技術も取り入れることで、ファサードは動きのあるステージとなるが、20世紀初頭ではそんな技術はない。それにも関わらずガウディは、プリミティーブなモダンアートの始まりを、素材の物理的特性を利用して表現していたのである。

この演出がどうであるにしろ、見る側の感性によって見え方が違うはずである。
そんな憶測ができるのも、ガウディ建築作品ならではの好奇心を掻き立てる要素でもある。
ガウディの建築姿勢から考えられるのは、もっともシンプルなストーリーを作品に演出しているだろうということである。

私が、実測している間は、そんなことを考える余裕もなく、単に資料を整理しながらトレーシングペーパーに描き込んでいただけである。
来る日も来る日も下書きの図面と実測値の比較と検討、下書きは次第に汚れ階段の描画も他の描画も、鉛筆の汚れで分別がつかなくなっていた。
それでも次第に鉛筆の汚れの中でカサ・バトリョの全体像が見えてくる。しかも内蔵から外に向けて、この建物がどんな工夫がされているのかということまで理解しながら見えてくるのである。

現在ではこの館は棒付き飴“チュパチュプス”が所有している。
彼等により主階は展示会場とされ、食堂の部分のパティオ側に面している恐らく台所があったと思われる部屋の一部に、当時の持ち主であったホセ・バトリョ・カサノバ家族の写真が大きく引き伸ばされて展示してあった。
当時この修復工事をガウディは20万ペセタの予算で仕上げたことはホワンベルゴスの会話の中に記されている。
参考のために、当時の職人の日当は5ペセタの時代である。
高額の予算による増改築工事であることからも、計画の精度向上の目的が平行している事が予想される。
しかも普通であれば既製品で納めるところを、この計画の為に家具のデザインや、屋根瓦の一部も特注でマジョルカのマナコールやバレンシアのマニセスに発注しているのである。

   
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