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  建築家トップ > バルセロナ便り > 第50回
実測で見えたガウディデザイン バルセロナの陽光に魅せられて 最もガウディに近づいた建築家、田中裕也が綴る

かくて世界遺産を詳細に記した
世界に唯一のアイソメ図となった

芸術作品についてガウディは“全ての芸術作品には魅力があるはずである。
そのオリジナルを求めるとき、魅力を忘れてはならない。
“と言っている。

カサ・バトリョの階段の寸法は、ガウディ自らがその手摺りに沿って何度も上下往復をして調整した、と言うから使いやすいのは当然のことである。彼は、このカサ・バトリョの工事の為に171段の階段、つまり7階分の階段を何度も上下していることになる。
53歳とはいえ、関節リウマチの持病を抱えていた彼にはこたえる作業だろう。“いや、それにしても左の腿が振るえるな、最近は特に左足のくるぶしもうずくな”とガウディが包帯を巻いている足を上からなぜながらかばっている姿が想像できる。

階段から各階の入口ドアとセラミックの額縁、しかもシンプルでありながらエルゴノミックな取手に至る詳細の気配りは、ガウディならではの神話的演出にもなっている。
そして最上階の採光部ではまるで架空動物の背骨を内側から見せているような演出になっている。
さらに屋上階での階段室の屋根では、とんがり帽子に破砕タイルで仕上げのぼんぼりの付いた煙突笠木の処理が見られる。ここで既にカサ・ミラやグエル公園のパビリオンでも同じように階段と煙突という二つの機能をもった階段室を考案していることに気が付く。機能の合理性を図っていることが伺える。
ここでも明かり取りだけの機能を果たしているだけではなく、芸術的又は神話的付加価値をつけての処理となっている。
このように詳細に至るガウディの創造力と気配りは尽きることを知らない。

階段室が設置されている場所では、上部に従って階段部分の踊り場が狭くなっている。
ところが断面を見るとすり鉢型またはV字形になっていることに気が付く。
合わせてパティオの壁面が下部階と上階ではブルーと白のコンビネーションによって配色トーンで調光されている。
上部は殆どブルー色となり上から下に向けて次第に白の数が多くなり下層階では真っ白になるという青と白の組み合わせによるグラデーションをつけたタイル張りになっている。色によっても光量の反射が異なるから、彼がよく使うpantone300番程度のブルー色と白の組み合わせで調光をしている。これは明らかに明度の具合を調整しており、これからは視覚的な洞察だけではなく科学的な実証となる数値の裏付けが必要となる。

パティオ内部に差し込む光は、上階ほど太陽の直射による明度は高くなり、下部に従って明度は下がる。入射口の大きさが限られていることから、ガウディは入射光の光量を変える他の手段として上記の手法を考えたということになる。

そんなことにも気が付かず最初は実測にだけ夢中になっていた。
その為に何度も計り直しを余儀なくされ、繰り返しの実測から、それまでに気が付かなかった事実が見えてきた。

実測の中で手強いのは曲線部分である。一度に全てを計りきれるものではない。
計る基準点を少し違えるだけでかなりの寸法のずれが生じるのが曲線の特徴である。これはπの特性といえるだろう。
そんな作業が半年も続いた。
パティオに面した階段の実測を終えて断面アイソメ図、通常は断面透視図としての清書に半年の時間がかかった。予想以外の時間で下書きができた。その後、三度のトレースによる仕上げから1年半で縮尺50分の1による長さ約3mx1mのオリジナル断面アイソメ図となった。しかも2005年にはカサ・バトリョも世界遺産に指定された。これによって私のこの断面アイソメ図も世界遺産に関わる貴重な唯一の資料となった。

   
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