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実測で見えたガウディデザイン バルセロナの陽光に魅せられて 最もガウディに近づいた建築家、田中裕也が綴る

音の建築家を育んだ、父親の仕事と幼少期

先頃は、バルセロナ大聖堂の後方にあるアラゴン古文書館で月曜日と火曜日の週二日、午後の6時半から1時間半の間、カタルニア工科大学バルセロナ建築学部のドクター・コースのゼミがあった。聴講者達は、博士コースの受講生は勿論だが、それにもまして高齢者達が多かった。そのゼミの中でガウディが経験主義者であったことを何度か聞かされた。

またガウディ自身も“創造の法則にしたがって物が実現され、体験は創造の承認となる。”としている。 では体験が創造の起源となりえるのだろうか?

 
コーヒーミルクと瞑想
 
階段の周囲を見回して目につくのは珍しい形をした小梁である。
その形はエジプトのピラミッドの尖塔を納める時の截石法(エストリトミア)と同じような形式で、梁の中央が合掌型の三角アーチ状になっている。この形は学生時代に西洋建築史で教わった石組みに似ていたことを想い出した。
次に、この階段にそって外壁部に取り付けられている開口部の反響板(トルナボス)の角度も同時に測ることで音の流れ方を想定できるような気もした。合わせて開口部から見える周囲の背景も気晴らしになる。
この調査では、話し相手は鐘楼の石と階段だけ。
時には外の風が鐘楼に迷い込んでは私に声をかけてくれるような気もした。
このようにして現場での実測のあと大学の食堂で暖かいコーヒーミルクを飲みながら新たに作成したデーターを点検する。そしてアトリエに戻って実測の整理をするが、作図中には瞑想にふけることもあり、あまりにも深入りすると眠くなることもある。
 
形、空間と音の関係性を体が覚える
 

言語は、3才頃までに定着するというが、創作への関心も同時期に生活環境の中ではぐくまれるとすれば、ガウディによる”幻の鐘”の発想と音への関心はこの幼少の頃に由縁するということになるのだろう。
そこで彼の幼少時代に父親の鋳掛け職の環境とその周囲の自然環境ということに注目する。
父の鋳掛け工房は、バイシ・カンプ地方のリウドムス町にあった。
この町はガウディが洗礼を受けたサン ペドロ教会のあるレウス市の隣町である。レウスでは中等学校までを過ごしている。しかし関節リウマチを患っていたガウディは、友人達との付き合いよりも父の工房と自然との接触に興味を示していた。多分に父の鋳掛け業の創作過程による影響が大きかった為に、ガウディは、音に関しては異常なまでに繊細だった。

空間性に関してもガウディが言うところの“天使の3次元的視点”はまさに銅版から鍋釜に叩き上げながら作られていく様子を示している。私でもその過程には興味がある。
このプロセスには当然音が伴い、形によっては音色が変わると言うことも自然に身に付いていたことは疑う余地はない。
それが音による建築空間となり、夢のゴシック教会では“幻の鐘の音”が聞こえる計画をすることになる。
さらにその音源となる“幻の鐘”は、ガウディの唱える“幾何学の父である放物曲線”を利用した形として、双曲面体による筒状の鐘に発展する。
この双曲面体の筒状の鐘とは、円筒状の餅の両端をもって引っ張ると中央が細くなるが、そのような形。又は筒状のゴムを捻ると中央が細くなるがこれも同じような形となる。
そのような形状を生かして作った筒状の鐘ということになる。

 
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