ガウディが考える「良い作品」とは
ガウディの誠実さはテレサ学院の計画でも示される。
ガウディはエンリ・ケ・デオッソ神父から仕事を依頼される時に、予算の不足をコメントされる。そこでガウディは「貴方は本業を果たしてください。私は自分の本業をまっとうしましょう。そして良い作品を作りましょう」とコメントする。この辺りはガウディの建築における自信と想像力がうかがえることばでもある。
つまり建築というのは予算に合わせることができるというよりも、どんな場合でも対応できるような創造力を必要としていて、その可能性を示唆した言葉と思えてしかたがない。
ガウディは状況を把握した上でオーナーへのコメントで彼の建築家としての姿勢を示している。しかも経済状況を知りながら仕事の依頼を受け入れるのだから、それだけでも彼のキャパの広さを見せている。
テレサ学院で使用されている素材は煉瓦と粗石である。材料としてはもっとも安価である。それでも美しい空間がつくれるのである。
シンプルでわずかなカテナリー曲線が建物を引き締めている。
広い廊下に天井から差し込む自然光と内部の赤茶煉瓦とのコントラスト、そして白塗りされたパティオはさらに廊下を明るくしている。
子供達が裏庭にあるパティオから廊下を通り抜ける。
挨拶の声が聞こえている。はりのある元気な声である。
いつの時代でも子供達の声は元気を取り戻してくれる。
彼らが大人に成長するためのベースとしての倫理を、しっかり身につけさせてくれるのがこのテレサ学院の教育方針でもあるようだ。
厳粛にして端正な内部空間は私の好きな空間の一つである。
この中で建築家の巧としての技を見せている部分がある。
それが煉瓦によるカテナリー曲線アーチである。当時としては珍しい形である。
そのアーチを、2階では大胆にも連続アーチとして展開させている。
明かり取りのパティオがある脇から差し込む光が、連続アーチの美しさを醸し出している。廊下の突き当たりは小さなレンガ造の多柱室のような空間になっている。
ガウディが暗示する「良い作品」とは何を示しているのだろうか。
どこにも見られないような空間、それとも美しい空間、オーナーの条件を満たしてくれるような空間、用途を反映させた空間、女学院としての厳粛にして清楚な空間、教育の場であり修道場であるということも忘れてはならない条件である。これらを網羅させたそれまでにはなかった学校建築をガウディは良い作品として考えたという事になる。
その成果は、エンリケ・デ・オッソ神父が1889年5月のサンタ・テレサ誌で<<この5月に3階部分は完成するだろう。建ち上がるにしたがって眺望が広がり2階からは街の殆どとジョブレガット平原が見られる。立面は知的な建築家ガウディによって階が作られるたびに美しく壮大な姿となるように変更された>>とガウディの仕事を褒められている。
女性徒が徳と文学を完璧に覚える学校を作ってくれたことも示している。
慈悲という徳を教えてくれる学校、ガウディの会話にあらわれる言葉である。サグラダ・ファミリア教会の誕生の門にもレリーフに現されている。
彼にとってどれほど重要だったことか。
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