建築家と職人の刺激的な信頼関係
ガウディは歴史的建築様式についての考察で、「ゴシック・スタイルは円の悪用であり、悪用は常に無謀である。よって調和ではない」としている。この考察はベルゴスとの会話の中に出てくるが、まさに伝統様式の弱点を指摘してその改善策を計ろうとしている様子が伺われる。
日本の伝統職人とスペインの伝統職人との違いはなにか。
その前に、親の代々から受け継がれた素材と技術を継承しようとする心意気は共有している。その意味ではかなり頑固なところであり、それがあるからこそ伝統は守られてきたのである。それはトラディショナルということで、ファッションの世界ではバーゲンがあっても頑固に値引きはされないスタイルのものである。
それでは異国同士の職人の違いはどこにあるのか。
私の知っている宮大工の西岡常一さんは、槍鉋(やりかんな)を見せてくれて、「このように木を削ぐのです」と実演してくれた事を鮮明に覚えている。その彼が槍鉋の特性を説明してくれたとき、「この道具によって削った面を抑える役目も果たすので、防水加工をする必要がなくなる」とうのである。伝統技法の素晴らしさの一面をそのように説明してくれたのである。
スペインの伝統職人の煉瓦積み左官士ジョルディ氏は、曾祖父の代からで19世紀末建築の現場や代表的な建築家達の工事を請負っていた。彼の技術は単なる施工技術だけではなく、さらにアートも付加される。しかも研究熱心に幾何学も分析もする。更に施工と美学的な仕上げまでも検討しながら作業を進めることができる人である。こうなると下手な建築家は必要がなくなる。
スペインの左官伝統職人は土工、配管、左官、大工と四つの工程を一人でできるほどの腕がある。そんな職人が傍にいるだけでも建築計画はしやすくなるというのも事実である。
私はバルセロナで住宅計画の依頼を受けた時に、現在では忘れているカタルニア伝統工法のカタルニア・ボールトによる住宅件工房を作る事になる。そこでこの職人さんに現場を依頼した。すると彼からは、「マンネリな形や技法には辟易する」という返事が返って来た。
建築家と職人達の間にはマンネリな形や技法よりも、更に新鮮なものを計画することで互いに作る事の楽しみを共有する作業が重要であることを経験させてもらった。
そうすることで職人さんは腕の見せ所にもなり、施工にも力がはいるのである。
そんな職人気質がガウディの時代にもあったということを感じさせられた。
建築の場合は建築家と職人さんのチーム・ワークがしっかりしていなくてはならない。むしろ二人三脚のような状態だろう。そんな環境がガウディと職人さんの間にもあったことから、互いの信頼関係が生まれていたのだ。
ときには200人以上の技術者や職人達がサグラダ・ファミリア教会にいたという。
このグエル公園の施工業者はホセ・パルド、フリアン・パルドの請負業者を別に採用しているが、彼らも同じ様にガウディと一緒に仕事をする事の楽しさを自ら語っている。
その環境でグエル公園の住宅計画では、60戸の敷地面積は平均2000平米の三角分譲住宅となる。 |