模型作りで理解できた螺旋階段の不思議
サグラダ・ファミリア教会で模型を作らせていただいたのがちょうど螺旋階段の実測をしていた時であった。だから1982年頃だったかな。
その時は模型主任Jordi Cussó(ジョルディ・クッソ)とサブ主任Josep Tallada(ジョセップ・タジャーダ)であった。そのサブのジョセップは特に人懐こく交友があった。その彼に「私も石膏模型製作を体験したいので教えて欲しい」と言ったところ、いきなり石膏の塊を目の前に突き出してくれた。
それでお好みの形を彫り出せというのである。
木であればノコギリで切ったりノミで削り出したりする。ところが石膏は素材が石灰なので扱いが異なる。粉の石灰に水を混ぜて好きな型に流し込むだけで求める形が得られる。ところか既に固まった形の石膏を削るというのだからまるで彫刻の作業である。初めに彼らの作業風景を見て、削るにはノミでと思ってガリっと削りかける。すると乾ききた石膏は簡単には削らせてくれない。
ジョセップは笑みを浮かべなら「初めに削りたい部分には水をかけるのさ」とスポンジに水を含ませ削りたいところに水をかける。なるヘソ思うように削れるではないか。そのような作業を進めながら、その頃に測っていた階段の段の一段目をなんとか形にしようと思い、1日がかりでその形にした。次に其の型を抜き、雛形作りとなる。この雛形が歪んでいると、いくら型抜きして他のピースを作ったにしても繋げるときに連続にならないということがある。
それも知らずに兎も角この雛形を作ればなんとでもなると思っていた。そしてコピーのピースを数個、抜き取って繋げてみた。
実に不完全な螺旋階段になってしまった。脇で見ていたジョセップは「心配するな。次回にまたチャレンジすればいい」と言ってくれた。教会の仕事の終了時間が来てしまったので私もため息をついてジョセップと帰宅した。実測の後、模型作りをしてアパートにどもるとぐったりであった。
数日してからまた螺旋階段の実測の後模型室に立ち寄った。
さて今日も例の模型作りを続けようかなと思って自分の作業場に着くと「あれ模型が綺麗にできるではないか」。実は私がいない間に、ジョセップがその模型を新たに作ってくれていたのである。見事な十二段の螺旋階段が一回転のひねりで綺麗に完成していた。
私は感激してジョセップにお礼をした。
ただその10分の1の螺旋階段の模型をしばらく見ていて不思議でならなかった。
というのは通常螺旋階段というと円の中央に柱があって、壁とその柱で階段を支えている。ところがこのサグラダ・ファミリアの螺旋階段は中央に柱はなくしかも壁がなくてもその形を維持しているのである。
私はそれまでに理解していた螺旋階段の概念を覆されてしまったのである。
柱や壁がなくても維持できる階段の存在を、この時に体験したのである。
これはフランス・ゴシック建築にもあったのだ。
この螺旋階段のカラクリは階段桁にある。螺旋階段の中心に本来あるべき支柱がその桁によって替えられているのである。それがしかも急こう配の螺旋階段の手すりにもなっている。実に巧みな戦国時代の建築詳細である。 |