アイデンティティの表出は、建築にストーリーを持たせる事
バルセロナの中心街でパセオ・デ・グラシという地区がある。
東京だと銀座のような所で、高級ブティックが勢揃い。
その一角に“はみ出し地区”(ディスコルディア)と名付けられたところがある。
この名前の由縁は、このあたりは拡張地区(エンサンチェス)と言われていて、すでにこの碁盤の目に区切る計画をした1860年代には、この主唱者であった都市計画家イルデフォンソ・セルダは5階建ての建築まで計画して、その形で拡張地区を描いた。ところがモデルニズモの建築家達はこぞって、パターン化された建築を避けるような建築を作り始めたのである。中でもこのモデルニモの一角はその代表作として言われているのである。
そこにはドメネック・モンタネールのカサ・レオ、プーチ・カダファルクのカサ・アマジェ、そしてガウディのカサ・バトリョが続いて並んでいる一角である。
中でもカサ・バトリョは1901年から1906年に計画されたもので、新たな神話をモチーフにした形が再現されていることが解ってきた。
ここでは特に、カタルニア地方の神話に出てくるジョルディ聖人によるドラゴン退治、そしてギリシャ神話のドラゴンを重複させた建築を演出しているのではないかということである。
この作品の左隣には、モデルニズモの建築家プーチ・カダファルクの代表作である1890年に造られたカサ・アマジェがある。このアーチの入口には小さなサン・ジョルディによるドラゴン退治のシーンの浮き彫りが飾られていて、手に取るように見られる位置にある。建築内外部を含めてバルセロナ世紀末建築の代表作と言われるほどに細かく装飾が施されているが、少し離れるだけで折角の装飾も見えなくなるのが残念である。
労作であるはずの壁面レリーフは、細かな細工で衣類の柄にも似ている。
建築の装飾を創作にするには、幾つかの手法があるだろうが、建築の場合はガウディに従った「用途に応じた装飾に機能を与える概念として検討しなくてはならない」ということである。それについては“物の実現は法則に従うことが創造の法則である。体験は創造の承認である”としてガウディの言葉で裏打ちされている。
その中でガウディ建築が、遠く離れていても一目で区別がつきやすい程の建築として表現され、しかも街のシンボルにもなっているのはどうしてなのか。
この強烈な印象を与える創作手法とは何か。
ガウディはどのようにして建物に演出を加えるのだろうか。
装飾的建築を目指さなかったガウディの建築演出は、何に起因するのだろうか。
ここで想い出すのがガウディの手記に記されている“物語”や“神話”である。
この民俗学的な演出を建築にするには、作品にストーリー性を持たせることであり、そのために、例えばドラゴンやオーナーのアイデンティティーを強調する。これにより、より作品の特性を象徴させ、作家の意図が表現されていることが理解できる。
そのような意味では、建造物で地域のアイデンティーを演出しようとする行為は、決してガウディだけではないということも事実である。
エジプト、ギリシャ、日本、そしてマヤやインカでも類似した手法を用いて建造物を象徴化し、さらに民衆の生活空間が定着したところであれば、よりその協調性が高まるのである。
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