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建築家トップ > バルセロナ便り > 第301回

実測で見えたガウディデザイン バルセロナの陽光に魅せられて 最もガウディに近づいた建築家、田中裕也が綴る

ポリ・フニクラーの実験

あらためて実測による効果を考える。
特にガウディ建築では、その手法が十二分に役立った。つまり充実した科学的内容や倫理や歴史にまで関わる詳細が、それぞれの作品に反映されている。作家のセンスが建築言語という手法で表されているのは新鮮さも感じさせる。
しかも建築作品が自然の摂理に従った方法となっているなら、さらにものづくりの真髄ということにもなり、ガウディの創作性は、ものづくりの真理となるのかもしれない。
しかし歴史上の巨匠たちがそうであったようにガウディもその一人とするなら、さらにこれからもそれを超越するような優れた作家も現れる可能性もあるはずである。その時が来るまで、これまでの作業も役立つことを願っての資料作りになるのがこの実測によるデータと信じている。

そこで次世代に見えてくる創作性とはどんなものになるのか。まさかITによる人工知能(AI)によるものなのか、それとも今までのように人間本来の力・特性としての優れたセンスによる挑戦か。自然にかなった素材、形、空間とは何かということでアプローチするとどんなものが見えるだろうか?という探求の世界が残っているのだろうか。

素材がリサイクルで、しかも耐久性があり、無害、で美しいとか。構造も今までのような大地にしっかり根付いた形ではなく、宙吊りになったような構造体、それともtensegrityのようなどこからの力に対しても影響力がほとんどないような空間体なのか。更には今までに見られない素材による新たな構造体ということにも関心が高まるはずである。

ガウディのポリ・フニクラーの実験というのは、その時代以前にはなかった構造体であり、そのためにガウディは10年の歳月を費やして作り上げた。これがコロニア・グエル教会のための構造体であり、その建築が未完のためにサグラダ・ファミリア教会でその構造体を応用したのです。
従来のゴシック建築には見られなかった、より合理的な構造を希求しての研究成果であるはずだが、この実験でガウディはそこからさらに何を求めようとしていたのだろうか。単に因襲的な構造概念からの離脱、それとも合理的構造概念の探求。これにしてもまだ大地にしっかりと根をはるような構造体であることには違いない。ところがその構造体の一箇所に触れるだけで全体が揺れるような関係は実際の建築として考えた場合、どのような影響を及ぼすことになるのだろうかという疑問が浮かび上がる。
しかし其の疑問も実は、どこからの力に対しても全体で吸収するという理解もできることになる。つまりアンチノミー的な解釈もできるようになる。
とすれば耐震的にはどうであろうか。まるで木造建築のように相互の対応の動きに応じて力を吸収できる構造体として理解できないだろうか。バルセロナの歴史上で15世紀には大きな地震で教会が壊れた経験をしている。私も何度か微震をこのバルセロナで経験している。ということはガウディもそのような現象にも対応できるような構造概念を、このポリ・フニクラーに応用したのだろうということも考えられる。

今までの実測データから次に取り組むべきは、科学的な検証分野が残っている。音、色、光、素材(材質)それと合わせて幾何学構成と自然科学の演出と歴史の関わりである。
     
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