作品に隠された物語・演出を探る楽しさは 歴史的建造物だからこそ
ガウディは“建築家の役目は機能の特質的な形態を見つける事であり、言葉も幾何学の様に具体的であって装飾家的であってはならない。”と建築家としての姿勢を述べている。
ギリシャ神話の話しの続きに戻って見ると、父エウリステオは、意味のない冒険を息子ヘラクレスにさせたことになる。
問題は父がなぜ息子にこの冒険をさせたのだろうかということ。
一方、ヘラクレスとの戦いで敗れた100個の頭をもったドラゴンは、ヘラ女神によって星にされてしまうのである。
実際には“ヘビの星座”に変身されてしまうとしているが、中でもヘラクレスとドラゴンが隣り合わせとなって如何にも戦っているかのようなシーンにも見られる。
そんな神話の世界をカサ・バトリョの壁面に星座マップとして描くために、ガウディはわざわざパセオ・デ・グラシ通りを挟んで、見ながら仕上げの指示をしていたことが想像できるが、理にかなっている。
単なる幾何学模様であれば、机上でも想定できるのでわざわざ遠くから離れ見てモザイクの配置を指示する必要がない。しかしそれがある種のストーリーと絵画性があるとすれば、まさにガウディの処理方法に頼るしかないことが理解できるということになる。
そうしなければ建物の壁面バランスがどうなっているのか把握できないことは勿論であるが、ファサード全体の仕上げを気にしていたガウディの意図が洞察出来る。それはカサ・バトリョの工事現場を管理していたホセ・バイヨの、ガウディがファサードの正面に向かって細かい仕上げの指示をしていたという証言からも裏付けされる。
といっても、ガウディは壁面に星座を描いたとは何処にも言い残していないし、今まで誰もそれについて語る人はいなかったことも事実である。
しかしここでフィンカ・グエルの建築演出を想い出さずには入られない。
ドラゴンとヘスペリスの園, そして星座との関係を中央門で演出していることは知られている。
しかもサグラダ・ファミリア教会の誕生の門のアーチ部分にも、星座が乙女座から牡羊座まで浮き彫りされていることは既に記している。
ただしこの洞察は1992年以来、カタルニア工科大学バルセロナ建築学部で私の博士論文以降にも書き添えている。
これらの推理が正しいとすれば、抽象的ドラゴン退治のシーンをパセオ・デ・グラシアのど真ん中で、ガウディが建築を通して披露していることになる。
想像する自由は誰にでもある。
そんな楽しい想像を経験と勉強によってさらに膨らませてくれるのも歴史的建造物の特徴であり楽しさでもある。
建築作品の物語性の確信を得るには、作者自らがその演出を語らない限りは無理である。
しかしそれを探り当てようとする行為もまたシャーロック・ホームズの謎解きにも似ていて面白い。
まるで“イタチごっこ”と言ったところだろう。
料理でも優れた料理人の気持ちを当てるのは面白いが、秘伝と言われるその味付けを当てるのは至難の業である。
話しはさらに飛んでしまうが、スペインのカタルニア地方に世界的に著名な料理人、アンドレウ・フェランという人がフィゲーラス地方に“エル・ブジ”というレストランで働いている。このレストランは年間の半分が休業中で、しかもその間に世界の料理を試食し歩き、アトリエで料理の研究に没頭しているということを聞いたことがある。
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