カサ・ミラの煙突は楽器として創られた?
ガウディは、職人の選択をするときに“仕事の成果は協力者達によるものであり、それは愛によるもので、憎悪を生み出すようなことになってはならない。”という。確かにガウディがサグラダ・ファミリア教会で仕事をしていたときに、一時は200人くらいの協力者達がいたとも言われている。
建築計画から実施施工に至るまで、詳細の現場合わせ、動線、用途変更等、基本計画からの変更は必ずあると言っても語弊ではない。その為に変更図面も場合によっては描かれることもある。
長い年月を経過した建物の場合、さらに時代を越えて用途変更のための増改築、改修工事などで間仕切りや詳細が変更されることもある。
このカサ・ミラも同じような運命を辿っているのである。
1984年に世界遺産となって以来、この作品へのビジターは日増しに増加している。
観光シーズンになると一日のビジターが一万人は下らないという。
しかしそれは今の話しである。
私がまだ実測していた頃は、この建物には住民がいて門番もいた。
今では入場料を取るだけではなく、警備員がいて赤外線トンネルまで設置されて受付係員も大げさなほどにいる。
その為にパティオにでさえもそう簡単には出入りできなくなっている。
私がある日、門番に実測ができないか尋ねてみた。
難しそうな返事であったが屋根裏階へ案内してくれた。
その頃屋根裏階はアパートになっていた。
そこで適当に住民の扉を叩いて様子を伺ってみることにした。
偶然に尋ねた住民のアパートは、セサール・マルティネールによる作図に表わされていた住宅であり、当時の住人は確か写真家であった。
ガウディの作品の中での生活状況を聞き出すことができた。
“風の強い日などは屋上から面白い音色が聞こえる”というこの住民の話が今でも印象に残っている。
まさかと思っていたが、確かに煙突の細部をみると、煙突の尖塔部に小さな開口部が有る。空気の入り具合によって煙突内部に強い気流を流すことになり、風が吹く度に、管楽器の様になる可能性がある。その裏付けには、将来の科学的研究が必要となる。
それにしても建築の一部が風によって楽器に変わるという見方は面白い。
その視点からは既に芸術の世界である。
これでモニュメントの作り方や建築の作り方もさらに楽しくなってくる。
超高層ビルなども形によっては面白い音がでることになる。気流で音がでる楽器に変貌するという、都市における建築楽器となる可能性も将来は有り得る。
そうなると騒音も問題になる可能性も起きるだろう。
建築そのものが既に物質である以上は、空気に触れることで音が出るのは当たり前であり、必要以上の音が出る場合は基準法の対象になったりするだろう。
単に形によって音色を変えるというのは、まるで建築をアートとして捉える日本の庭園における水禽窟の様でもある。
水が落ちる音が瓶の内部に反響して、その神秘的な音を出すことになる。
その音色は偶然であり自然であり意外である。
これも自然の力による楽器と化す建築の一部として考えることもできる。
しかし一日中鳴っているとなると、これも音公害として隣近所から苦情が来そうな気もしないでもないが。
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