バヨとアントンの素敵な関係
カサ・ミラの建設工事を担当したホセ・バヨ・フォンとガウディとの会話の記録が残っている。
工事管理の仕方で適正でない場合は、直接「貴方が理解できないし貴方も私を理解できないだろう」と言う。 更にバヨとの間であるものを説明するときは「バヨ、解りましたか」と説明の後にかならず聞き直す。バヨはそれで「はい、セニュール、解ったと思います」と答える。ガウディは「私はそうは思わないのでそれを説明してください」と聞き直す。するとバヨは舌がもつれたかのように「そのそのその」と答えた。そこでガウディは間髪を入れずに「しかし貴方は解ったと思ったのですね? 不注意ですね。解りましたか」と忠告する。
「通常人の過ちを指摘する時、人は怒鳴り始めますが、ガウディが怒るときなどはそれとは違って声を下げる」と説明している。
「これは恐らく、状況が悪化しないようにする為だと思う」とバヨは私見を述べている。
バヨ氏は、ガウディをアントンさんと呼んでいた。
ある日、彼にとって記念すべき言葉がアントンさんからあった。
「バヨ、貴方は素晴らしい左官ですね」と言われたのだ。
彼らの会話からなぜか親しみが滲み出ている。これでもし、傲慢なガウディであったとしたらどうだろうか、協力者達の敬虔で率直な会話もこうではなかったはずである。
人間ガウディの一面を覗かせている面白い会話集を私は読ませてもらった。
私のカサ・ミラの調査は次第に実測から作図の清書に入る。
この作業では孤高の人になってしまう。時間は容赦なく進み作業は反比例するように難儀した。それでもいつかは終わる事を信じて毎日夜中の2時頃までの作業が続いた。
今でも、作図が始まるとこの時間帯となる。今では老眼鏡をかけなければ細かい線や字は読みにくい。無理に肉眼で見ようとして近づけても像がぼんやりとし、更に涙まで出てくるので愕然とするが。
ガウディ建築の作図をするという決意は、実はそんな時期が自分にも必ずやってくる予感があった。だから、その前にできる限りの図面を描く必要があると思った。それ以来狂ったかのように時間も忘れて没頭してきた。
それが習慣となると瞑想の時間となる。
目地入れや幾何学の作図を検討するとき等は特に興奮し始める。
好奇心の虫が体中を走り巡るのである。
カサ・ミラの作図は、断面アイソメ図と全体アイソメ図を最初にかき上げ、そのあと詳細の整理をした。中には外壁平面図を立面状に並べて柱の構成図を描いたものもあった。
それにスケッチや写真の段階で得た画像情報と影をその中に組み込み、陰影の入った本格的な立面図を描く。
図面への他の創作過程としては物理的な検証から形が生まれるという事もあり得るし、もしファサードのエレメントが海にまつわるものと想定すると、その調和性から珊瑚礁、岩場、岩礁、等、潮や波によって削られた形からでも創作された可能性は高いと想像できる。
歴史的な特徴をこの作品に反映したということをガウディはどこにも記してはいないが、彼のバナキュラーな思考過程には必要に応じて歴史を超越して利用しているという解釈もできる。
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