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  建築家トップ > バルセロナ便り > 第83回
実測で見えたガウディデザイン バルセロナの陽光に魅せられて 最もガウディに近づいた建築家、田中裕也が綴る

逆さ吊り構造模型実験で得た物

ガウディの日誌に
圧縮カ−ブの研究と引張力は、一般建築に応用できる丈夫なものである。何世紀もの間、建築は直感と経験で作られたが、その理論を知らなかった故に利用しなかった。しかし我々はその長所を時代の先駆けとして知る事で、無理のあるようなものは避けながら容易に利用できる。と書かれている箇所がある。

これはフニクラー曲線、又は放物曲線を建築構造として見た場合についての特性を示唆している。
この経験主義的な手法をベースにガウディは、建築の中で応用する。
中でもカサ・ミラの施工で利用された最上階の煉瓦アーチは、そのカテナリー曲線を得る為に鎖を吊り下げ、そこに板を当て鎖の等分負荷重で出来上がった曲線を描いて、そのラインに沿って大工カサスが型板を作ったという。それを更に逆にすると力学的に圧縮に替わり、やはり同じ形が描かれることからそれに従って煉瓦を並べる。
そのようにして建築に利用するという方法を、このコロニア・グエル地下聖堂から考え出したものではないだろうかと考えた。

では最初の放物曲線をガウディはどこで使い始めたのだろうか。
フィンカグエル(1873?1887)ではないだろうか。
ここでは、開口部が見事な放物曲線というよりも全くのカテナリー曲線で作られている。
ただ、ここではまだ構造体というより補助的な、むしろ装飾的な開口部でアプローチをしているのではないだろうか。
そして1898年のコロニアグエル教会では、逆さ吊り構造模型実験で本格的に建築に利用できるかどうかの確認を測る事になる。
11年の間に、ガウディにどのような心境の変化と経験があったのだろうか。
その経緯を考察しながら、同じようにそのカテナリーの要素だけを拝借させていただき「百聞は一見にしかず」。私もその裏付けを立証する為に、煉瓦を利用してガウディの建築手法を自分なりに経験することになる。
その最初の作品は2001年、バルセロナの近郊の街マスナウにあるカサ・パコの増改築である。殆どがこのカテナリー曲線を利用した構造体による計画で、天井の高さが4.5mある。画家の家屋上のテラス屋根をカテナリー曲線状のボールトによって増築し、工房に替えて快適な空間を得る事となった。
今でも見学をする人がいると聞いている。
近代では忘れ去られた構造空間として、今時珍しい家なのかもしれない。

この伝統的な手法によるカテナリー曲線を利用することがどれほど有効であるかは、作図の段階で、私は幾何学としての放物曲線を描く事から理解できた。それ以来、半円より放物曲線の方がより正確に作図できる事も理解できた。
同時に力学的にも自然の摂理にかなった形であると言う事も解った。

図面の二次元の世界から立体である3次元では、まさに自然物理の世界を直接建築に利用するために、さらに忍耐のいる高度な実験を10年もガウディは費やしていた。
それを執拗に押し進めた理由は、ある種の確証をガウディは得ていたからだろう。

   
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