アステカの左官技術でガウディのボールトを再現
ガウディを検証していると、独自の研究テーマをもとに自然現象の観察から、瞬時の現象で万有引力F= GMm/R2の裏付けができたのだろうとも考えられる「リンゴの落下」で知られるニュートンを思い出す。
ガウディは、懸垂曲線(フニクラー曲線)を現実の建築に適応させる為にリンゴを紐にぶら下げる代わりに空気銃の玉を入れた袋を沢山吊り下げる。
それででき上がった形を「ポリフニクラー」とスペインでは呼んでいる。
ここでは「多重フニクラー」と命名する。
過去の検証から導き出される手法を、私は現代の建築に最近取り入れている。
人によってはアナクロ二ズム的に見る人もいる。
歴史というのは、現代もそうであるように歴史の1ページを毎日作っているのであるという事実からすれば、現代もその中にあると言える。
過去の検証は、そのイズムの云々を考えるのではなく人間の生活や文化の中で現代または未来に通用する考え方が時代に関係なくあり、その裏付けを知る為に歴史がある、という事を認識するだけでも今後の文明や文化に対応する姿勢が変わるはずである。
それらを参考にしながら現代が築かれ、未来が築かれていくからである。
その意味で、時代に関係なく物事の善し悪しを判断するという事は、大切な事である。
過去の時代に生きたガウディの考えた未来像を想像しながら、私自身スペインで建築計画ができるようになったのが1990年からである。その頃からこのカテナリー曲線を建築に利用している。
つい最近では、2007年6月末から7月初めにかけてメキシコのトルーカの街に、ボールト・アーチ(BET 2)を完成させた。
私の友人である、ガウディ・クラブ文化協会メキシコ支部の代表をしている建築家、マルコ・メヒアス博士が2007年にメキシコのトルーカ市にあるメキシコ国立自治大学でワーク・ショップを開催してくれた。そこで、ワーク・ショップとは別に、私にモニュメント計画をしてくれないかと尋ねてきた。私の滞在期間が当初は8日間であったがさらに4日間延長され、12日間となり、その間になんとかモニュメントができないものかと相談を受けた。
断ることもできず、早速コンセプトとしてはガウディ的要素をもったモニュメントということであったので、私は江別のモニュメントを想い出した。
勿論、材料と職人の手間は出す事ができるというのである。
江別のモニュメントは4本足だがこのメキシコでのモニュメントは二本足で建ててみようと考えた。
実際に作業は、私がメキシコに到着して3日目に始まった。先生と学生を交えたその製作行程では、私も自らコテをもって動き、時には先生や学生達にも体験させた。
施工が始まる時点で、地元の左官職人達も先生達の要請で4人くらい集まってきた。
彼等はアステカ時代からの左官技術を利用して、現在でも建築修復をしているという。それはまさくしガウディの左官技術と共通していたのである。
私はそれに驚くよりも強く感激した。
よその国に来ても、人間本来の生活の営みで利用される技術が共通するということを実感したからである。
しかし、ガウディの取り入れたボールト工法は彼等には初めてのことで、私は自ら施工の指導に入った。
すると彼等の棟梁が私の傍にやってきて私につぶやいた。
「今まで沢山の建築家と仕事をしてきたが、今回の貴方のような建築家が自ら一緒に作業するという事は初めての経験である」といいながら笑顔を見せていた。
うれしいやら悲しいやら不思議な気持ちになったが、それ以降の作業進行では非常に打ち解けた環境となり、指示通りに動いてくれるようになった。
それで私の滞在期間中に何とか下地だけは完成した。
その後2007年11月には完成したということを建築家マルコから聞かされた。 |